■ 「近・現代文学研究会」 第90回 (2006年7月) ■ |
上林暁 「白い屋形船」 | ||
記念すべき第九十回「近・現代文学研究会」は、七月二十日、日本民主主義文学会の会議室で行われました。
今回は上林暁の「白い屋形船」で、報告者は上林暁と同県人の下田城玄氏。下田氏にはこの研究会の報告のためにわざわざ四国高知から来ていただきました。参加者は、報告者を含めて十名でした。 下田氏は詳細なレジュメを用意されて、概ね次のように報告されました。 一、上林暁は七十七年の生涯のなかで四百編あまりの小説を書いた、「最後の私小説家」と言われる作家である。 二、「白い屋形船」は、二度目の脳溢血後、寝たきりになった状態のなかで、幻想的な心象風景を描いた作品で、死と、そこからの生還という、生への希求をテーマとしている。私小説的リアリズム域を超えた作品である。 三、上林は私小説に詩と哲学を取り入れようとした作家で、彼の誠実さには大きな魅力があり、私小説に批判があるにしても、彼の作品の持つ味わいを正当に見つめていく必要がある。 参加者の中から、時代や社会に関心を持たないところが引っかかるといった批判や、私小説はあまり好みでないといった意見も出されました。しかし、一方私小説大好きという参加者からは熱い私小説擁護の感想も出されました。また今回いい機会だからと思って読んだという参加者からは、戦前戦後の食糧難時代の、食べ物のことや飢えの感覚がよく描かれていて、そのこと自体社会批判、時代批判になっている、人間像もよく描かれていて、しかもその描き方は平らかである、脳溢血で倒れてなお書き続けた、文学魂、文学に対する執念には圧倒された、等の感想が出されました。 |
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(井上通泰) |
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