「近・現代文学研究会」 第89回 (2006年5月) 


   三島由紀夫  「憂国」  
 

 第八十九回の近・現代文学研究会は、五月二十五日に民主主義文学会事務所で開かれ、玉造修造氏が三島由紀夫「憂国」について報告した。出席者は、報告者をふくめて六名と、少人数であった。
 玉造氏は長文のレジュメを用意され、それに従って報告された。氏が三島に関心をもったのは四十年前の中学三年生の時。テレビで映画「憂国」の宣伝を見たのがきっかけで、以来、代表作を読み進めてきたという。「金閣寺」では、罪を犯した主人公の描き方に矛盾を感じつつも、最終の、生きようとする姿に救われたが、「憂国」は逆に死に向き合った作品として注目され、同時に永遠の愛を描きだそうとしていると述べた。テーマは、二・二六事件に材をとった「殉死」であるが、夫婦の死だけを描いており、矮小化されたものになっていると批評。軍の内部対立などについては見ようとしておらず、主観的に美化してとらえられている。時代をどう生きるかの哲学に届かず、けっきょくのところエロスと大義の融合に行き着いた。かつて三島にひかれたのも、ちょうど性に目覚める少年時代のことであり、そのエロスにひかれたように思う。当時の気持ちをきちんと捉え直してみたいと思ってきたが、それができるのはこの研究会しかなかったと語ってしめくくった。
 報告への質問が出されてから、出席者それぞれの感想と意見がかわされた。「グロテスク、読むに耐え難かった」というものから、「文章は磨きあげられている」など、感想はさまざま。論議は主としてテーマのとらえ方について意見が出された。
 そのなかで「自分の世界に入ってくれる人を対象に書いている作家で、二・二六を懐古した作品。観念から出発し、大義を前提として書かれたこの作は、民主主義文学にとっての反面教師として受けとめた」という発言が印象に残った。 
 
  (澤田章子)     
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