「近・現代文学研究会」 第86回(2005年11月) 


   松本清張 「黒地の絵」  
 

 十一月十七日夜、第八十六回近・現代文学研究会が日本民主主義文学会事務所で開かれ、松本清張の「黒地の絵」について長谷川綾子さんが報告した。参加者九名。報告者は、九州・小倉まで足を運び、北九州市立松本清張記念館や米軍城野キャンプ周辺などを見学、調査。詳細なレジメは出席者を感嘆させた。
 「黒地の絵」は、作者が作家デビューする前に小倉で起きた事件がテーマ。昭和二十五年七月十一日夜、城野キャンプから黒人兵二百五十名が集団脱走、小倉の街に散った。作者が社会派推理作家といわれるようになる最初の作品。昭和三十三年『新潮』三月号、四月号に発表、ノンフィクションの代表作「日本の黒い霧」につながる作品として位置づけられている。
 朝鮮戦争に派兵されるキャンプ地の黒人兵たちが集団脱走、暴行、窃盗、違法侵入、強姦未遂を引き起こした。しかし、占領軍による報道管制で被害の実態はいまもって不明。事件当時、清張は、城野キャンプに隣接する黒原営団に居住していた。長谷川さんは、米国立公文書館保存資料、当時の新聞切り抜き、地図、さらに死体処理、「占領下の小倉」など、「黒地の絵」を理解する上で欠かすことのできない貴重なデータを蒐集した。鳥取県では事件を共産党地区委員会発行の『伯西民報』に載せたため、軍事裁判にかけられ、重労働五年の実刑判決がいいわたされた例もあるという。
 報告者は、「黒地の絵」は、黒人批判ではなく、戦争告発の作品と高く評価した。一方、悪文だ、という意見もあり、議論は活発化した。  
 
  (鶴岡征雄)     
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