■■ 「批評を考える会」 <2006年10月> ■■

 

 十月二十六日、同会で「批評論序説」(永井潔)を対象に小林昭氏が報告。司会は宮本阿伎氏。参加者は二十一名、椅子を増やした。小林氏は永井氏の諸著作をふまえ、要点を次のようにまとめた。(1)芸術は人間の労働から生まれた、(2)芸術を創造と鑑賞の両面から考察する、(3)芸術は形象による認識である。芸術による認識を感性的認識というのは正確ではなく、形象的認識(形づくるという認識)と指摘し、永井氏の論の根底に弁証法的唯物論が一貫してあると論じた。
 永井氏は画家らしいマクロな世界の見方と具体的な芸術の分析を示された。氏は芸術の呪術起源説を批判し、労働から形象が発生すると力説した。芸術の大衆化が問題となったときもあったが、現今では生産力の新しい段階でのIT革命で情報が逆に氾濫し混乱していること、またアルチザン(職人)からアルチスト(芸術家)へとの運動がおきたが、これも逆転現象が生じていること、またコミュニケーションの手段が極度に発展した結果、さかさまにその不全現象が惹起されていること(昔はこころが通い合って心中という悲劇がおきたが、出会い系サイト等ではその裏返しとなっている例)も示された。封建時代から近代への移行では経済が先ず変わったが、多数者革命では「文化」の変革が先行するのではないかとの問題提起もなされた。科学と芸術の関係については、なんのために科学はあるのか、という価値について究めることが芸術の特質であると述べられた。子どもにとっての「人形」はその子だけの価値をもっており、価値の多様性を再認識していくこと、日本文学の読者から批評が失われている今こそ批評の復権が求められているとした。それは氏の芸術を核とした歴史的洞察がおもむかせた言であったと考えられる。討論というより永井氏の熱情溢れる発言に聞きほれた。短評でその思いを充分伝えられないのが残念である。
(鈴木秀肖)

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