二月十六日、十六人の参加で例会は開かれた。テーマは乙部宗徳「『リアリズム論』を考える」(『小説の心、批評の目』)で、報告者は久野通広氏。久野氏はリアリズムを創作技術ではなく、文学者の現実への向かい方としてとらえる乙部論文を宮本百合子・顕治の往復書簡で補強・発展させて論じた。
討論では資本主義への批判をもったリアリズムという意見もでたが、広くリアリズムそのものを深める中で、リアルなものを探究することが文学にとって重要ではないか、との考えが示された。リアルという概念は実作に即して検討される必要があるとの指摘があった。リアルという語は多義的で通俗なものまで含められる恐れがあるからである。エンゲルスの述べたリアリズムの概念「細部における真実さ」と「典型的状況における典型的人間」は有効だがそれのみに尽きることなく、リアリズムを概念でとらえるのではなく、作品に即して論じるべきだという意見が出た。
リアリズムといっても自然主義リアリズム、プロレタリアリアリズム、シュールレアリスム、社会主義リアリズムなど世界文学にかかわり多様な言われ方をしてきた。文学運動上どれだけリアリズムを深め創造と批評の上に発展させてきたか問われる。百合子・顕治書簡の示したリアリズムのもつ発展的見通しの観点などまだ汲み尽くされていないと感じた。特に「戦後文学」をリアリズムの観点からどうとらえるか、文学運動でリアリズムが問われている社会的意義の検証も課題として残された。深めて考察されるべき批評の論点が多い例会だった。
|