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八月の作者と読者の会は八月三十一日、民主文学会事務所において十三名が参加して開かれた。
乙部宗徳氏の司会で『民主文学』九月号から、能村三千代「引き出しの中」、宍戸ひろゆき「駄目クロ」の二作品を取り上げた。
「引き出しの中」を報告した井上文夫氏は、母(勝枝)の、デイサービス一日体験をめぐる出来事を、主人公(誠)の視点で認知症と介護という深刻な問題を、ユーモアと哀感をにじませながら描いているのがこの作品の良いところである。それぞれの登場人物がくっきりと描かれている。認知症が、これから先ひどくなるだろう母を、どのように面倒みていくのか、主人公にとって、かなり深刻である。作品の中の主人公は、その点での認識が甘い気がすると指摘。ただ母の引き出しの中に、母自身が生き甲斐、喜びとするものを見つけていこうという主人公の気持ちが、この作品に明るさを添えている。作者は、引き出しを開くと、何かいい物が入っているような感じがしていると述べた。
「駄目クロ」は、洲浜昌弘氏が報告した。
作品の背景としては、作中に「五十年近くの歳月を経て」とあるが、「いま」の時代が示されない。「紡績工場」が東京からも社員がくる、社宅のある唯一の会社とあり、「スーパー」の語がでてくるので、高度成長前期がおわるころ=東京オリンピック前後のころか。工業化、都市化で自然が侵される一方、社会法制の整備も進み、人々の生活意識も変わりはじめて、野良犬の存在が許されなくなった。テーマとしては、仲間や生き物たちとの触れ合い、大人との関わりで、育ってゆく子どもたち、他者への理解、共感など、文章の指摘としては、長い修飾語の問題、重複表現、文のねじれなど問題点が報告された。参加者からは、人が変わるということは、どのようなことなのか等、様々な発言が、時間を忘れるほど、多く出された。作者は、山梨県北杜市在住でもあり、残念ながら、出席できなかった。 |
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