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八月号掲載の二作品に係る、作者と読者の会は七月二十七日、文学会事務所に十一名が参加して行われた。
最初に、司会の宮寺清一氏が「百二十九枚。職場を背景に描いた、久々の作品」と紹介した力作、大浦ふみ子「きみを忘れない」の報告は、岩渕剛氏が担当した。長崎の造船所を舞台に、無理な受注を激しい人減らしで乗り切ろうとする会社と、企業存続を第一義とする労働組合のもと、自己犠牲を当然視しても職場で存在を認められたい労働者の事故死を扱った作品である。非正規雇用が増える情勢下、正社員となった労働者も「勝ち組」とはいえない。職場で自分を認められたい若者を食い物にする企業への作者の怒りがみえてくる。と岩渕氏が報告を結んだ。
参加者からは、良く調べて書かれている、職場には憲法も労基法もないのが実情だ、労働組合の描き方もリアルだ、人の死が粗末に扱われている、などの意見が出た。職場の状況を調べて書くことは容易ではなく、作者の努力は貴重である。
一方、タイトルに相応しい描き方でない、どうやって短く書くかを考えないと、読者が飽きてしまう、作者の憤りが先にあって、それを絵にあてはめるような描き方になってはいないだろうか、細部のリアリティがきちんと描かれないと、作者の怒りがストレートに伝わってこない、との指摘もあった。
続いて、右遠俊郎「ヒロシマにつながる話」。宮本阿伎氏は、四枚のレジュメを用意し、「被爆者で医師であり、詩人である丸屋博、被爆韓国人李順基の自分史に感銘を受けた作者の経験を綴る、いわばノンフィクション小説」と作品を規定した上で、「あくまで小説として成立している。なにが、この小説を小説たらしめているか」と、「小説的表現」を具体的に示して、詳細に報告した。「仔細に読み込んでゆくと、作者自身の眼、思想によって話が組み立てられていることが、理解されてくる。作者の事物、人生への見方、感動を突き詰めて表す文章に潜んでいるのではないだろうか」と、宮本氏は報告を結んだ。最後に、作者から、この作品の発表に至る、作者と丸屋氏とのやりとりが紹介された。「二人の関係が書きたかった。それがすべてだ。これで終わり。歴史に残そうとか、そのような考えは一切ない」という言葉が述べられた。参加者の「今日は、来てよかった」との声には、同感だった。
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