|
六月二十九日、金子喜美子「ヒヤシンス」、野川紀夫「光とナイフ」の作者と読者の会が開かれた。梅雨に入り当夜は雨だったが、全体で二十名の満席。作者の金子さんは車椅子で、野川さんは遠く愛知から参加された。司会は宮本阿伎氏。
「ヒヤシンス」を報告した平瀬誠一氏は、九六年度支部誌同人誌推薦の優秀作「あらぐさのとき」以来の五作品を丹念に解説。前々作、「この不明」(〇一年七月)で描かれた二年後の状況を題材とした続編であると紹介した。前作ではアルコール依存症、今回は口腔底癌と闘病する夫が登場する。看護する妻も重いリウマチに侵された極限状況であるが、今回の作品では、夫が欲しがったヒヤシンスの花に寄せて希望をかき立てる。どのような状況でも人は生きていくという、暗いままでは終わらない、全作品に共通した独特の世界が描かれたと報告した。参加者からは、死と隣り合わせながら、嘆き悲しむというのでなく淡々とした描写に凄みを感じる。死に敏感になると、命あるものに関心が深くなる。自然、季節の移り変わりなどの描写でそれが表現されているなどの感想が語られた。主人公にもう少し距離をとって書くと、起伏が出て感動が生まれるのではなどの意見もあった。この日は、脳幹出血で倒れてちょうど三年目に当たるという作者は、それを題材とした前作「カシスのリキュール」より前に手がけていた作品と説明。告知をしないままに終わったこと、夫が望んだ花を買わなかったことへの葛藤がモチーフだったと語った。
「光とナイフ」は牛久保建男氏が報告した。長編「時の轍」ほか労働者の闘いを書き続けてきた作家で、今回も労働者の姿が匂い立つように描写されている。行き場のない男に作者は関心があるように思うが、この作品のテーマはどこにあるのか。入口は工夫されているが出口はどうか。唐突な終わり方で作り物めいてしまったのではと、疑問を投げかけた。
参加者はテレビドラマを観るように引き込まれて読んだ。中小企業に生きる人々の心情がよく描かれている。個々の人物の表現は申し分ないが、総体をどう捉えているか。光に向かって逃げる人間の意気込みと読んだ人と、なぜ逃げるのか、逃げる行動で何を表現しようとしたか見えないという人に分かれた。作者は、「時の轍」に取り入れようとしてできなかった話のひとつを生かし、急激に現れた事態に人はどう動くかを短編で書いてみたが、失敗作だと思うと述べた。
|
|