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去る三月三十日、定例の「作者と読者の会」が文学会会議室で開かれた。参加者は十六名で司会は山形暁子氏。
初めに井上通泰作「古時計」。まず工藤威氏よりストーリー、古時計の意味などについて説明、紹介があった。この作品は主人公宗男少年の視点から描かれた児童文学的な味わいを持ち、けっこう深刻な状況の中にもユーモアが漂っている。おじさん(母の兄)と宗男の関係が面白いなどの感想が出された。が、また一方で何が一番書きたかったのかなかなか見えてこない、家族構成をもっと早く読者に分からせた方が良いなどの意見もあった。その後作者から「宗男を書きたかった。普遍的なものにしたかった。説明はできるだけ省きたかった」などの話があった。
次に須藤みゆき作「やさしい光」。澤田章子氏より報告。前作「夏空の彼方」と大体同じシチュエーションでそれと対をなす作品ということ。それだけ想いのこもった百二十枚を超える力作である。心に傷を持つ主人公深雪が大沢くんとの関わりによって次第に癒され、大沢くんを救おうとすることによって自分もまた救われていく。風、光、季節などの描写がうまい、深雪と母との関係がよく描かれていて感動があったなどの報告があった。
出席者の意見として、大沢くんの存在感が弱い、彼の内面に踏み込めていないという感想もあった。その他長すぎるという意見が複数あった。作者からは「テーマを設定しては書かないが、言いたかったことは不幸な境遇でもそれに打ち克つ力が人間にはあるということではないか」という話がされた。
積極的に意見や感想が出され良い勉強会だったと思う。今回の二作に共通するのはなるべく説明を省き描写で話を展開させる、またいかに深刻で大変な状況であってもユーモアを失わず描いているというようなことだろうか。民主文学にも着実に新しい風が吹き始めている。 |
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