「作者と読者の会」 2007年2月号 


  一月二十六日、作者と読者の会が文学会会議室で開かれた。澤田章子氏の司会で『民主文学』二月号から、吉開那津子氏が原洋司「最初の雪花」について、森与志男氏が野澤昭俊「子ども二景」について報告した。司会者、報告者をふくめ、参加者は十八名だった。
 吉開氏は冒頭、「最初の雪花」は総じてほころびのない作品だと指摘し、障害とともに生きなければならない、人生の最後に達した人たちの姿が優しい視線で描かれている。が、視線には鋭さもある。老人たちのちょっとしたいやらしさも、新吉の目は見逃していない。施設へ老人たちを送迎するという新吉の、外からの観察者という立場がこういう仔細な観察も可能にした。勝ち組は、介護といった地味な仕事には就かない。結びに引かれた歌もいい。作品はしみじみと、ささやかにこのテーマをうたっていると話した。
 討論では、身近な介護施設と重ねて読まされ、胸にしみた。作品の眼差しは優しいという報告に賛同する声が複数上がった。介護保険の適用範囲が削られ費用が改定されるなど、制度の悪化のことが書き込まれている。将棋好きの村田秀夫が元気を失っていき、新吉が声をかけるが〈…俺にはこの一手が読みきれん〉と憤る姿は、この制度改悪と無関係とは思えない。なお、言葉に重複があることや、題名の雪花(ゆきはな)に「最初の」という言葉を冠した意味が分かりにくかったという発言もあった。新吉=運転手という設定が作品をむやみに深刻なものにしなくてよかったとは作者の苦労談であった。
 「子ども二景」について森氏は、細かい報告は省くとことわった上で、おおよそ次のように話した。若い作家たちが健筆を奮っている状況のなかで、「子ども二景」はベテランが新しい境地を拓くためにがんばっている、そういう作品のひとつである。〈赤いランドセル〉はスレスレの所を書くという点で面白い作品になった。手を繋がされて山門に向かう、この一組の姿を少年たちが笑う。初老が「小悪魔的」な少女に翻弄されている。参道で出会った少女の知り合いの婦人から不審の目を向けられる。怖い情景である。〈黄色の洋傘〉が描いたのは、雨の朝の駅頭での議員の演説の情景だが、ビラを撒くわたしに、ゴム長の紳士が言う「…人情がない」については、考え所であるから皆さんに考えてほしい。また、「二景」の魅力はどちらも日常の小さな出来事を切りとって作品にしたことにあると森氏は報告を結んだ。
 〈赤いランドセル〉について、少女はかなりの「知能犯」などと受け取り方はさまざまであったが、もっぱら「知らぬ人には近づくな」で済まそうとする現状批判だという指摘に議論は収斂していった。
 〈黄色の洋傘〉について、少年が洋傘を、ゴム長の紳士にではなく、赤い腕章のわたしに開かせる情景は、子どもの素直さ、直感力の鋭さを描いている。作者は「二景」によって人心の機微に表現を与えようとした。評価できるという指摘があった。〈黄色の洋傘〉には不十分さもある。作品〈銀杏の実〉が書き直しをへて〈赤いランドセル〉になったなどの経緯を作者は率直に披瀝した。 
(土屋俊郎) 
「作者と読者の会」に戻る


民主主義文学会とは行事案内月刊「民主文学」あゆみ新人賞手塚英孝賞新刊案内民主文学館支部誌・同人誌声明
問い合わせ文学教室創作専科土曜講座山の文学学校文学散歩若い世代の文学カフェ創作通信作者と読者の会リンク