「作者と読者の会」 2007年11月号 



 十一月号の作者と読者の会は十月二十六日、桐野遼「花殻とスーツ」、大石敏和「傷痕」を取り上げて行われ、台風が近づく雨の中、十一人の参加者を得て熱く意見を交換した。司会は平瀬誠一さん。
 「花殻とスーツ」について報告者の塚原理恵さんは、認知症を患いながら生きることの意味を問う作品で、頭の働きに異常を感じた主人公の戸惑いと混乱、それを受け止めて共に生きてゆこうとする家族の様子が具体的に描かれているが、これは認知症患者自身が書いた貴重な記録であり、ひいては医療的な面から見ても場面の一つ一つが認知症ケアの基本を示している、とこの作品を高く評価した。参加者の意見として、誰にでも起こり得ることだと思うと恐くなった、深刻な状況にもかかわらず前向きに生きてゆこうとする態度に感動した、悲しいなどという言葉をいっさい用いず感情を伝えている書き方はすごいと思った、などなど。作者は、自身の体験を記録として書いていたときは苦しくなったが小説として描いているうちに「もう一度人生やってみるか」という気になった、と語った。
 「傷痕」の報告者は旭爪あかねさん。作者の強いモチーフが感じられる作品で、原爆への怒り、子どもらしい友情から男性として女性を思う気持ちに成長する主人公の内面の変化が描かれたものと受け止めた。恵子がいつかは堂々と生きてゆくときがくるのではないかとの希望もうかがえるのに「哀れな恵子」という同情にとどまっているのを歯がゆく思った、と述べた。参加者からは、諫早水害の描写は迫力があった、表題が率直過ぎてネタが割れている、書き方が結構しつこい、など忌憚ない感想が出された。作者は積年のテーマを書き上げるまでの苦闘と掲載に辿り着いた喜びを語り、十一月号を六十五冊買い取って配ったこと、友人や恩師からあたたかい批評と激励を得たことなど披露した。
 
(堺田鶴子) 
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