「作者と読者の会」 2006年7月 


 六月二十八日、丹羽郁生氏「杭を打つ」の「作者と読者の会」は、二十一人が参加して行なわれた。司会は宮本阿伎氏。
 報告者の三浦健治氏は、直接感性に訴えてくる作品、エラボレーション(書き直し)による認識の深化がある小説であるとして、多くの書き手を励ましたのではないか、と述べた。その上で、内容の中心点、方法上の問題提起、作品構造の三点にわたって、一時間に及ぶ緻密で重厚な分析を加えた。
 参加者から、「長大な世界歴史の中に日本の現実を置いて文学世界を構築している」「厳しく気高いフチークの生き方を主人公興津につきつけていると同時に、読み手に自分のあり方を問いかけている」「興津の自己省察が随所にあり感動的」「反動化に警鐘を乱打する緊迫感がある」「学校事務職だけでなく、周囲の多種多様な労働者の姿に筆が及んでいる」などの感想が出された。
 さらに、三浦氏から提起された次の二点について活発な意見が交わされた。一元描写によって社会や政治の問題をどう描くか。異文化の共存するダイナミズムと複雑な現実をどうリアルに書き表すか。この点について、今後民主文学の課題として考えていきたい、という実作への意欲にあふれた意見も出された。
 作者の丹羽氏によると、フチークの読書体験、入学式の君が代斉唱時の不起立という実体験がなければ、この作品は書かれなかったという。また、一日に二十行くらいしか筆が進まないときもあったという述懐から、作者の苦闘と文学に向かう厳しい姿勢が察せられた。
 時の過ぎるのを忘れて論議は続いた。「参加してよかった」「勉強になった」という参加者の声が多かった。                                  
(柴垣文子) 
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