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六月号の「作者と読者の会」は、旭爪あかね「ミシンと本棚」と秋谷徹雄「玉川上水」を取り上げ、十六名の参加者を得て活発な意見交換がされた。司会は風見梢太郎氏。
「ミシンと本棚」について、報告者の丹羽郁生氏は、若い男女の恋愛、民族を超えた研究者同士の友情、農業経済部門でのマルクス主義経済学研究という題材が、よく練られた構成で描かれ、登場人物もシンプルで人物配置に無駄がなく、いい小説であると述べた。参加者からは、民主文学では恋愛を描いた小説は少ないので貴重な作品、洋装店のお針子と大学院生との恋はどこかメルヘンチックな雰囲気がある、ストーリーを語るのが巧みであり文章もこなれていて読みやすいという感想が出された。マタニティドレスを作成する場面は魅力的だが、多くを盛り込みすぎて焦点が絞りきれていないという指摘もあった。旭爪氏は、「恋愛小説を書いたつもりはなく、崔さんと主人公の交流を描きたかった。光州事件はその場所に行ってみたりしたのだが結果的にはボアボアと終わってしまった。何を書いてもさわやか系といわれてしまう感じ。自分の内面が鍛えられないとそれなりのものは書けないのだろう」と、作者の思いを述べた。
「玉川上水」の報告者工藤威氏は、この作品の魅力を一言でいえば主人公と前山の会話の妙味であり、OBも出入りできる労働組合事務所の雰囲気、道路拡張が玉川上水にかかる現場を歩いてみるときの風景描写など、えもいわれぬ文章・文体にひきつけられながら読んだと述べた。参加者の意見としては、もっとストーリーを進行させてほしかった、これといった話のないところから作品を編み出した意欲を感じる、とにかく会話が面白いなどなど。作者の秋谷氏は、「東京の変貌振りは凄まじい。将来どうなるのかと心配だが、作家としてとにかく書くよりほかない」と語った。 |
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