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盛況だった。参加十八名。司会能島龍三氏。
まず、宮寺清一氏から、ご自身の工場労働体験も交え、田村光男「モデル工場」の報告がなされた。六十年代半ば、労働組合分裂攻撃の嵐の時代、第一組合に残るか採用の決まった職場に移るかのドラマをかかえた主人公、その人間関係、あらすじをふまえて、氏は問題を指摘された。今なぜこの時代を描くのかが見えてこない。今をどう生きるかとのつながりが見えない。
労働現場を描いて貴重である、という意見に多くが同意しつつも、小説を書くことの根本に触れる問題提起に、参加者は皆自らを省みている風だった。
後半は櫂悦子「謝辞」。報告者丹羽郁生氏は、人間的なつながりが失われつつある現代の職場状況を、主人公正社員の燿子と派遣社員貴恵の確執の中にとらえ、貴恵からのメールによる、一瞬の心の通い合いを描いて感動的な作品と述べた。
「主人公の娘とつきあう彼」のモデルである派遣社員の男性が参加され、貴恵からのメールは連帯の証ではなく、燿子への攻撃ではないのか、と正反対の感想を出された。
二次会を含め、貴恵のメールに連帯を見るか批判を見るかで議論は盛り上がったが、いずれにしても、それだけ読者の中で人間像が生き続ける優れた作品である点、意見は一致した。
なぜこれを書くか、今をどう生きるか、人間形象の大切さ。
小説の根本を考えさせる刺激に満ちた会だった。 |
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