心さわぐ文学サロン

第32回 草薙秀一『この国は誰のもの』

 四月四日、午後二時からオンラインで心さわぐ文学サロン「『この国は誰のもの』を読む」を開催した。司会は風見梢太郎氏、報告者は松本喜久夫氏、参加は作者の草薙秀一氏を含め十三人だった。

 作品について松本氏は以下のように報告した。テーマに対して効果的な人物設定と造形がされている。構成では家族の幸せな日常を描くことで事故の悲惨さを強く感じさせている。妻の葛藤を丹念に描いたことが作品の奥行きを深くしている。また、膨大な資料を読み込んだ創作意欲と熱意に敬意を覚えるとし、『民主文学』でも個人の生活を描いたものが多くなっている中で、政治的、社会的課題に真っ向から向き合った歴史的意義のある作品だと評価した。

 討論の中で参加者から、登場人物の気持ちの表現にリアリティがある、政治的・社会的なことを描くと叙事的になりがちだが人間の機微にまで踏み込んでいる、などの感想が出された。安保をテーマにすることは難しいが、よく書かれたと思うという意見もあった。

 作品は一九七七年に起きた米軍機墜落事故に材を得ているが、登場人物は創作であることが作者から話された。参加者からは、事故を知らない読者に被害者の家族関係などが事実と誤認される恐れがあり、被害者の感情を考えると問題ではないか、という指摘があった。作者からは、小説は事実と虚構で描くもの、歴史的事実は曲げないが、人物は自由に描いていいと考えるという発言があった。参加者自らの創作体験から、特定できる事件を題材にする際は気をつけなければならないという意見が出された。また読ませるための創作は必要だという意見や、事実を基にした作品の中で創作した人物が最も生き生きしているという例があるという話があった。答えが出る問題ではなく、意見が一致することはなかったが、終始冷静に意見が交わされ、有意義な討論となった。


 
(笹本敦史) 

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