心さわぐシニア文学サロン

第21回 東京教育大学のたたかいが問いかけるもの 

 第二十一回心騒ぐシニア文学サロンを五月十四日(土)午後二時からひらいた。  テーマは「東京教育大学のたたかいが問いかけるもの」で、テキストは真木和泉氏の『小説 私の東京教育大学』(本の泉社)。この本には、『民主文学』に掲載された同氏の「もう一度選ぶなら」(二〇〇八年六月号)、「初雪の夜」(二〇〇九年六月号)と書き下ろしの「残照」が収められている。  参加は五十人で、文学会外から三十二人が参加し、その半分以上は東京教育大の卒業生だった。六〇年代後半から七〇年代初頭の学園闘争の中で、唯一「廃学」となった東京教育大学の複雑な状況とそのたたかいへの思いを深めるものとなった。  

 報告は、東京女子大学名誉教授安藤信廣氏と文芸評論家の三浦光則氏が行った。  安藤氏は報告で、教育大闘争は、@大学の民主的運営を求め、非民主的な筑波移転強行に反対するたたかいだった。また、A教育大を廃学から救い、大学の自主的発展をかちとろうとするたたかいだった。東大闘争さらに、B国家や大企業、軍事産業に奉仕する科学技術体制に反対し、科学技術の民主的発展を守るたたかいだった。こうした課題は複雑にからみあっていたが、そのどれをとっても、日本の大学のあり方にかかわる根本的な問題だったと強調した。  三浦氏は、@「魅力ある先輩」の形象、A「民主的な人間関係」がよく伝わってくる。当時の運動を描く上で、今の生き方にどう影響を与えたかを描いている点で優れていると報告を行った。  「初雪の夜」の登場人物江原のモデルになる方のお連れ合いが、「あなたのご主人のことが書かれているみたいだから読んでみて」と本を届けられて、夫に見せたら、確かに自分のことだということで、文学会の事務所に連絡した。末期の肺がんだったご主人と真木氏が、四十数年ぶりに言葉を交わすことができた。葬儀では、真木さんの了解を得て、「初雪の夜」を参列者に持って行ってもらった。作品が、主人が「この世に存在した証として残った」と話した。  

 作者の真木氏からは、「初雪の夜」で寮の部屋にストーブを入れろという署名を集める時に、「僕たち下宿生は、みんなストーブくらい自分で買ってるよ」「ストーブくらい、自分で買ったら」と言われる場面は、貧しさを恥ずかしいという気持ちの出所を突き詰めて考えた描写だった、自分は貧しさをひけらかしていたが、深層のところでわだかまっていたものを描こうとしたことが明かされた。  参加者からは「断捨離していて、新しい本は買わないできたが、今回は購入した。私は学生時代に民青や共産党の人には出会わなかったが、そういう人に出会ったら人生が変わったかもしれない」といった意見も出された。オンライン開催になって、二回目以降参加している人が『民主文学』読者になった。
            
 (乙部宗徳) 

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