心さわぐシニア文学サロン

第14回 林真理子 『下流の宴』にみる家族像

 五月十八日、六名の参加者で始まった。冒頭、司会の島崎嗣生氏より、今回のテーマについて、不況、リストラ、倒産、非正規雇用の拡大により容易に正社員になれない時代のなか、欲望を持たず、持つ気もなくされ、以前の時代からは想像もできないようなメンタリティを持ち、親たちの信じてきたものと全く違う生き方を選択していく現代の若者たちをどうとらえるか、「内田樹『下流志向』」も参考にしながら討論を深めていきたいと語った。
 山形暁子氏は、「下流の宴」は取材力を駆使して現象を巧みに捉え、面白い展開と筆力で読者をひきつける一方、本質への追求が弱い点と、最後まで母親、由美子の成長をみることができないことが最大の不満であると語った。「蟹工船」ブームの起こった翌年に発表された新聞連載小説であるが、学ばない、働かない若者を生んでいる社会構造への視線を避け、何故こうなってしまったのか、どうしたら良いのかというふうに迫らない。頭の切れる筈の母、由美子は中流家庭を守るために猛烈に努力した結果、期待に応えなかった翔に対して「奮起、なんてことと一生無縁に暮らしていくんだろう」と諦めてしまう。目の前しか見えておらず愚かな母の姿が映し出されるが作品ではそれをわからせようとはしていない。作者は「宴」の外側に立って皮肉な眼で見つめるだけで、登場人物の誰にも寄り添わない。改めて私達の求める文学との違いが浮き彫りにされた。
 参加者からは、翔の描写は競争社会からこぼれ落ち、意欲を失った若者の悲しさを感じさせリアリティがある、プライドを語っていた翔が両親の家に戻っていく結末は疑問、覇気のない若者の背後に現代の社会構造がある、人間は製品ではない、教育はすぐに結果が出ない、待つことの大切さ等多岐に亘る感想が飛び交った。
 参加者が少ないことは残念であったが、密度の濃い、刺激的な会であった。
(源内純子) 

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