第13回 仙洞田一彦『砂の家』を通して団塊世代家族の生きかたを考える
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第十三回シニア文学サロンは「仙洞田一彦『砂の家』を通して団塊世代家族の生きかたを考える」というテーマで十月二十三日(水)に開催された。宮城肇氏は、報告のなかで「砂の家」という題名は懸命に働き築いてきた団塊世代夫婦の家が一瞬のうちに潰れてしまいそうになっている現実を象徴したものとした上で、二十年近く勤めた会社を辞めようとする息子に対して、退職後の行く末を考え、頑張って仕事を続けよと突き返す主人公、子どもに救いの手を出すのが当たり前と、夫に対抗する妻、失業中の夫とともに実家に頼ろうとする娘ら家族の、交錯する思いを丁寧に説き明かした。討論では追い詰められた息子と、その深刻さがわからず我慢を強いる団塊世代の主人公の感覚のずれが何故生じたかについて意見が集中した。団塊世代の大方は、終身雇用制、年功序列の賃金体系の支えがあり、仕事への実感、自負心をもって生涯の夢と計画を描いてきた世代であり、「持家政策」による長期ローンで会社の縛りを受けながら、子供に学歴を持たせる願いをもって働いてきた世代でもあった。一方、ロスジェネ世代の息子が勤めるIT産業は、技術の進化が早く長時間労働、仕事の安定性がなく、殺伐とした人間関係のなかで早期退職、心の平衡を失って離職するなど、将来が保障されない世界にある。現代は東京オリンピックの時代とは全く違う。辞めた後のことまで考えられない程追い込まれている息子の労働現場の酷さが身に沁みてわかっていない主人公の感覚のずれには、同世代の者として身に詰まされるという発言もあった。
平日、夕方の開催であった為か参加者は六名と少なかったが、白熱した討論会となった。最後に、激変する社会への想像力、フィーリングをもって生きづらい現代の世界をもっと描いていこうとの発言で討論を終えた。
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