心さわぐシニア文学サロン

第11回  柴垣文子 『星につなぐ道』について

 十二月十六日午後二時から、文学会事務所にて第十一回「心さわぐシニア文学サロン」が開催されました。柴垣文子さんの『星につなぐ道』(新日本出版社)を題材にして、一九六〇年代を描くことについての意見交換をしました。参加者は、作者の柴垣さんも含めて十六名でした。
 最初に、島崎嗣生さんが報告者として、作品に描かれた一九六〇年代の時代背景について全般的に述べた後に、この時代の「青春の特徴」として、@思想と恋愛・結婚が一体化していた、A古典学習が権威をもっていた、B若者が世界を変革できると信じていた、C科学的社会主義が若者の理想主義やロマン主義と一致していた、という点を指摘しました。それに続けて、島崎さんは、この作品の提起した「今日に受け継ぐべき課題」として、@異なる世界観をもつ人びととの共同を築きあげること、A民主的な活動のありかたを描いて、普遍的な共感を得られるための文学的な描き方の問題、B主人公の教師としての生活の中にみられる教師像の現代的意義、をあげて、討論にはいりました。
 討論の中では、作中の恋愛の描き方について、「学生どうしの関係でも、京都は厳しかったがそれ以外の地域ではどうだったのか」という疑問が出され、当時の民主的な学生運動の中での恋愛の実態が話題になりました。また、共産党への入党を決意する場面をめぐって、そこをリアリティをもって描く問題では、「現実の共産党員が読んで共感できることが前提である」「共産党員も〈ふつうの人〉であることを理解してもらわないと広がりがもてない」などという意見が出て、さらには「大学進学しなかった人からは別の世界のように感じられてしまう」という、学生と社会人との環境のちがいに注目した意見もあり、作品世界のわくにとどまらない、広く当時の時代環境についての意見交換となりました。
 二年ぶりの開催でしたが、充実した時間をもつことができました。今後の継続的なとりくみが期待されます。

(岩渕 剛) 

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