心さわぐシニア文学サロン

第10回  能島龍三 『夏雲』 について

 第十回心さわぐシニア文学サロンは、五月三十日午後、文京区民ホールで開かれた。参加者は二十二名。
 今回のテーマは今年二月に刊行された能島龍三氏の『夏雲』について、新船海三郎さんが、「『夏雲』に読む時代と青春」と題して一時間の報告を行った。
 報告では、「大学紛争」と称された激動の時期を背景に、二人の愛と成長を描いたこの作品が、当時はやった「自己否定」ではなく、「自己変革」を求める姿を描いたと指摘した。その「自己変革」は、二人をとりまく学校教育や社会、友人・家族の中で、その現実に正対することで、知識を知性に変えて成長していったことが作品に即して語られた。
 作品の中にある「全面発達」「汝の馬車を星につなげ」「誤解はいつか必ずとける」といった、鍵となる言葉を紹介することで、まっすぐに誠実に生きていく姿をとおして、どう生きるかを考えさせるという作品の魅力がふれられた。そのことは単に昔を懐かしがる作品にならなかった要因だろう。
 また、ザイルパートナーの諸星麦が、恋人に思いを伝えるために言葉を知りたいと思うことについて、女優の高峰秀子が子役から活躍していたために新聞を読むのに苦労して、夫の松山善三監督が辞書を買い与えたといった挿話も紹介されるなど、たっぷりと報告がされた。
 今回の案内は、以前、青木陽子さんの『雪解け道』を扱ったときのように、「しんぶん赤旗」の新日本出版社の『夏雲』の広告に入れてもらうことで、この集いが案内されたこともあって、作者のかつての職場の同僚や卒業以来の再会となった大学の先輩、新聞連載時に毎日挿絵を写していた方など、幅広い参加があった。民主主義文学の作品が、より広い場で語られることの大事さを感じた。第二十三回大会の幹事会報告でも課題となっているが、シニア文学サロンを各地で開催できるよう、積極的に希望を寄せてほしい。
(乙部宗徳) 

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