「作者と読者の会」
五月号の「作者と読者の会」は、四月二十五日(金)に斎藤克己「月光のしずく」、星加邦雄「あの、暑い夏」の二作品を対象に行われた。十二人が参加。司会は乙部宗徳氏
「あの、暑い夏」について松木新氏が報告。松木氏は「茨城方言を巧みに使った優れた戦争文学である」とし、「戦争(死)の対極にある平和(生)を、説得に描いている」として具体的な五点を挙げた。また「戦争文学の意味はどこにあるか、それは、『語り継がれずに消えてゆく記憶を保存する使命を、戦争文学は担っている』(浅田次郎)」とし、作品の中で四点挙げた。
参加者からは、「戦争に敗北するのは当たり前という状況が、実感として描写されている」「方言が作品になじんでいて、引き込まれて読んだ」「タイトルは終戦ドラマによく出てくるパターンで、一考が必要ではなかったか」など出された。作者からは「地元でのさまざまな聞き取りをする中で、軍事基地、飛行場をつくり、労働力をすべて軍に動員したなどの話を作品にした」など創作の過程を語った。
「月光のしずく」は岩渕剛氏が報告した。岩渕氏はストーリーを紹介し、「京都の民主府政が一九七八年に自民党主導の府政になって以後、『伝統校』を復権させようと進学実績を上げるために、学校運営を校長主導の非民主的なものに変えいく。教員たちも管理職のご機嫌取りに走る中で、犠牲になる生徒の典型として本松由美子が設定されている。彼女が『私』と出会う中で自分自身のやりたいことを見つめ、自発的進路を決めてゆく姿描かれている。管理主義教育のなかであっても、成長しようとする生徒に寄り添い手を貸す教師の姿を描いている」と報告。
討論では、「作者の四年前のアイヌに関する評論と通じるものがある。月光は民主的な教師たち、女神に変化するハルニレの樹を象徴するのが本松由美子と読んだ」「本松が本当の自分の姿を見つけていくところがよかった」「教師の中で、かつての学校を取り戻そうという広がりがあまり見えないのが残念」などの意見が出された。作者からは「すべて、モデルとなった学校で体験したこと。府教育委員会が高校を予備校化していった。そこで作り出した体制と暴力だった。かつての民主教育を今の教育を照らすものとして捉え直していきたいと思う」と述べた。
(高野裕治)
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