「作者と読者の会」
四月号の「作者と読者の会」は、三月二十八日(金)に牧野三太「グッドモーニング・ミスタークスイ」、北岡伸之「啓開のトラロープ」の二作品を対象に行われた。十一人が参加。司会は乙部宗徳氏。
「グッドモーニング・ミスタークスイ」は風見梢太郎氏が報告をした。風見氏は「楠井の教師像が大変さわやかに描かれている。楠井の言動を注意深く吟味し、間違いのない人物像を作り上げている。作者の体験、見識が楠井の人物像を作り上げるのに寄与していると思われる。短編でありながら、入学から卒業間際まで描いている。もう少しゆったりとした時間の流れの中で、臨場感、生活実感のようなものが必要ではなかったか」と報告した。
参加者からは、「暴力に毅然と対応する教師の姿が描かれ、最後まで心地よく読めた」「信念を持った教師像が描かれ、気持ちのいい作品。中学三年間をうまくまとめているが、急に一年半進むところなどがあり、読者がとまどうのでは」「教師と生徒のやりとりの描写の中で、教師の姿、主人公の気持ちが伝わるが、場面を凝縮したほうがよかったのでは」などの意見が出された。
作者からは「恩師が亡くなって中学時代から大人になる数十年の思いを最初に書いたが、支部での合評で小説ではなく文集のようだと言われた。民主的な教育とは意識しなかったが、その中味を書いたら民主的教育そのものだったことに気づかされた」と述べた。
「啓開のトラロープ」の報告は渡部唯生氏だったが、急な仕事の都合で文書報告となった。その中で渡部氏は作品の主題を「現代の社会生活に閉塞感を持つ普通の大人が、疎外からの回復を自然と死の危険の中に感じ、そこに幸福を享受する」とした。また「叙述が軽快で、読みやすい。疎外の問題を、まさにリアルタイムの問題として、現在性の表現に成功している」と記した。
参加者からは「若い勢いを感じる作品」「氷河期世代が社会からどう遇されているかを批判的に捉えている。女性の描き方にやや疑問を感じた」「人間にどこか希望を持たせようとしている。疎外からの回復を自然の中に求めている」「連帯していこうとする姿が、これまでの作品よりハッキリとしている」など出された。
作者は「世代的屈折だけでなく、希望もあることを示したかった。文学会の『若い世代の文学カフェ』で書く力を養われた、感謝しかない」と述べた。
(高野裕治)
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