「作者と読者の会」
三月号の「作者と読者の会」は、二月二十八日(金)に黒田健司「自動車雲」、保坂和夫「治ちゃん」二作品を対象に行われた。十人が参加。司会は乙部宗徳氏。
「自動車雲」は久野通広氏が報告した。作者が書きたかったことは、久野氏は「労働組合の原点は労働者の権利を守ることにあり、そのために闘ってこそ未来はある、というところにある」とし、「組合離れが言われる状況で、青年労働者が、同僚の死をきっかけに、組合とともに真相究明を会社に迫る活動を通して変化していく姿がさわやかに描かれいる。ただリアリティーを欠く設定があり課題を残した」と報告した。
参加者からは、「リアリティーの問題で、伏線はあるが、それが納得感あるものになりきれていないのが残念」「労働者が団結していく姿とその中で主人公が成長していくところがよかった」「中小企業で社長と従業員の距離が近いので、最後の場面での社長の変化はなくはないと思うが、やや都合がよすぎるのでは」などの意見が出された。作者は「これまでも作りすぎていると言われた。若者の労働組合運動に消極的と言われるが、その中で悩みながら進むのを励ましたいと思い書いた」と述べた。
「治ちゃん」は最上裕氏が報告をした。最上氏は「労働者の仲間を助けることができなかった悔恨、友だちを失った寂しさを書きたかったと思う。主人公のつらい心情が伝わってくる作品となっている。最後の呂律の回らない母親の台詞が印象的だった。治ちゃんが働く意欲をなくし、退職の道を選ぶが、その葛藤も書いてほしかった」と報告した。
参加者からは、「自治体労働者として治ちゃんのこまめな対応がよく書けている。母の介護などで悩み一時期引きこもりになるが、治ちゃんの姿がにじみ出ている」「最後の場面、特に母親の場面が印象的。台詞が地の文と同じような形で描かれているところがある。状況に応じて会話を作る、会話の言葉にする工夫が必要ではないか」「治ちゃんの人物像がイメージとして伝わってくる作品」などの意見が出された。作者は「この頃治ちゃんのように、欠勤を繰り返して退職していくことがあった。何度か書き直しているうちに、短くなった。その分治ちゃんの悩みを書き込めたらよかった」と述べた。
(高野裕治)
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