「作者と読者の会」
九月号、十月号の「作者と読者の会」は九月二十七日(金)午後六時から、九月号から入江秀子「チーズとコーラ」、水野敬美「父の悲しみ」、十月号から菅谷茂実「さよならソアラ」を取り上げた。参加者はオンラインを含め十八名。司会は乙部宗徳氏。
「チーズとコーラ」は風見梢太郎氏が報告。風見氏は作品の登場人物とストーリーを簡潔に述べた上で、「戦後の日本の庶民生活がみごとにとらえられている。全体が場面で構成されており、文章もしっかりしている。場面の組み合わせで小説を作るという、小説のお手本のような作品」と評した。
参加者からは、「人物がくっきりと浮かんでくる描き方がいいと思った。主人公と妹の対比がもう少しあってもいいのでは」「戦後アメリカ軍が日本の庶民の中にどう入っていったかが具体的に書かれていて分かった」「文章がわかりやすくて、読んでいて想像できるのがいい」などの意見が出された。作者は「切れ切れの記憶をフィクションで固めてつなぎあわせた。記憶をつなぎ合わせるのは、楽しく書けた」と語った。
「父の悲しみ」は鬼頭洋一氏が報告した。鬼頭氏は「一人息子を戦争でうばわれた父親の悲しみを、娘の視点から描いた作品。主人公は封建的な父と絶えずぶつかりながら自立していくが、傘寿を迎えた父親のことを書いておきたいという、作者の強いモチーフを感じる作品となっている」と報告。
参加者からは、「作者の過去の作品と少し違って、しっとりとなめらかに流れていく。父への思いがあふれ出る最後が特にいい」「父親の優しさが前段にも少しあった方がいいのでは、最後だけでは、ギャップを感じる」「戦争の本質を知らなかった父への悲しみは、主人公自身のそれでもあると読むことができた」など出された。作者は「当時の多くの庶民がそうだったように、戦争の本質を見抜く学問を得なかった父親の悲しみを書きたかった。それを見ている娘の姿。私自身を書いた」と述べた。
「さよならソアラ」は久野通広氏が報告。久野氏は「主人公が病気のため運転免許を返納し、愛車のソアラを手放す悲しみがじんわりと伝わってくる。ソアラを走らせる主人公の喜びが、〝人車一体〟とも言うべき車の擬人化の描写力がすごいと思った」と報告。
参加者からは「描写力にはおどろかされた」「車を恋人のように愛する姿がよく描かれている」「職場での心を病んでいくところも興味深かった」などの感想が出された。作者からは「初めて書いた小説。支部や東京研究集会などで意見をもらって改稿を重ねた。まだ荒削りのところがあると思うので、今後に生かしたい」と述べた。
(高野裕治)
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