「作者と読者の会」 2024年10月号



                  「作者と読者の会」

八月号の「作者と読者の会」は七月二十六日(金)午後六時から、青木陽子「二位殿様」、中田良一「小さな水槽」の二作品対象に開かれた。参加者はオンラインを含め七名。司会は乙部宗徳氏。

 「二位殿様」について能島龍三氏が次のように報告した。「戦争の時代を生きた義母の女性としての人生をあらためて見つめ直すことになった、彼女の息子の連れ合いの女性の思いを描いている。一つの人生が、いかに時代と深く関わっているのかを考えさせられ、しんみりしながら読み終えた」。討論では、「戦後世代が戦争をどう考えたらいいのかをみごとに描いている」「義母のキクの人物像がよくわかる」「作者の創作意図を納得して読んだ」など出された。

 作者からは「姑のことはこれまでもいろいろと違う側面から書いてきた。亡くなる半年前に『初めて話す』というのがいろいろ出てきた。一つのレクイエムとして書いたところがある」と述べた。
 討論の中では、「姑」「嫁」「義母」などの言葉の使い方についても意見が交わされた。

 「小さな水槽」について仙洞田一彦氏が次のように報告した。「小さな家族に起こる小さな出来事が、過不足なく簡潔に描かれている。主人公の娘の鮎美や孫の健一の今後には困難が予想されるが、そうした生活をしみじみと感じさせる作品。健一の心の動き、葛藤がきちんと描き出されているところが作品をよりよくしている」。討論では、「娘と孫への愛のかたちがよく描けている。愛妻を亡くした主人公のけなげさを感じさせる。健一と関わることで、愛妻の死をのりこえている」「健一の出来事での娘とシニア世代としてのやりとりがあれば、作品世界がもう少しふくらんだのではないか」などが出された。

 作者からは「これまでは体験の範囲をこえられなかった。今回は少し冒険をして、フィクションを入れて改稿をした」と述べた。

                       (高野裕治)

 
「作者と読者の会」に戻る