「作者と読者の会」 2024年06月号



                  「作者と読者の会」

六月号の「作者と読者の会」は五月三十一日(金)午後六時から、第二十一回民主文学新人賞の佳作入選の三作品、ゆうみずほ「かがやくみらい」、北岡伸之「源流へ」、山波おど女「『平和工房』の一週間」を対象に開かれた。報告は選考委員から三氏が担当した。参加者はオンラインを含め十二人。司会は乙部宗徳氏。

 「かがやくみらい」について久野通広氏が報告をした。久野氏は、作品世界を理解する上で「技能実習生」「監理団体」などの各制度やその問題点を指摘した上で、作品について「作品世界はまさに外国人の技能実習制度の問題に切り込んでいる。『人権後進国日本』の姿を浮き彫りにしたことは大きな意義がある。作品のテーマとモチーフもそこにある」と報告した。

 討論では「いま問題となっている題材を小説にされたことを評価したい。監理団体の人間を視点にしたところがいい」「前半は緊張感があるが、娘が出てきてから後半はやや緩んだ感じがした」などの意見が出された。

 作者から「はじめてこういう会に参加して、合評で育てられるんだなあと感じた。失踪者を追うなかで、誰が一番もうけているかなどを考えた。監理団体も苦労しているが、ここがしっかりしている国は失踪者も少ない。多文化共生も扱ってみたかった。長編にも挑みたいと思っている」と述べた。

 「源流へ」について風見梢太郎氏が報告した。風見氏は登場人物とストーリーを簡潔に述べた上で作品について「日本の労働環境、生活環境、食生活、風習などに対する鋭い批評・批判がある。源流を遡る場面の迫力がすばらしい。また三人の関係がよく描けている。強い主張に裏付けられた勢いのある文章が魅力的である」と報告した。

 討論では「自然描写がいい。勢いのある作品と感じた。主人公がややひがみっぽい感じがした」「刺激的な言葉、強い言葉がつづくと逆に感じなくなってしまう。静かな会話や情景のなかで浮かび上がらせることを考えてみてはどうか」「自分にはあまりなじみじゃないところがどんどん出てくるところがおもしろい。この作者じゃなければ書けないと思う」などの意見が出された。
 作者からは「源流釣りはきわめて特別な世界。これが生き方として人生の一部になっている。私たちの世代は、絶対的な幸福を求めることができない世代。それをどう表現するか考えていきたい」と述べた。

 「『平和工房』の一週間」についてはかなれ佳織氏が報告。かなれ氏は、構成と作品の特徴を内容上のポイントを簡潔に述べた上で、作品のテーマとモチーフについて「舞台となる北海道の地で、長きにわたり国の政策や国際情勢の遍歴で住民の人生が翻弄され続けてきた。その人々の体験を思い出話に終わらせない、繰り返してはならないという強い思いから、懸命に生き、老いたからこそ語り合える三人を設定し、どう生きるか、平和を愛するとは、と問いかける。根底に庶民の平和を願う気持ちはどの国であれ共通しているはずだという気持ちがあるのではないか」と報告。

 討論では「北方領土問題などの世界的問題まで膨らませている志を支持したい」「行動のエネルギーを感じさせるところがいい」「バッグをもっと象徴的にあつかうことも手かなと思った」などの意見が出された。

 作者は「実際に自分で一カ月かかって五十数個のバッグをミシンと格闘しながら作った。今回の作品が三作目。会話が多過ぎるのはその通りだと思う。平和や戦争のことなど多くは言わないが、誰もが心にもっていると思うし、そうしたことを書いてみたい」と語った。
                         (高野裕治)


 
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