「作者と読者の会」 2024年05月号



                  「作者と読者の会」

五月号の「作者と読者の会」は四月二十六日(金)午後六時から、仙洞田一彦「不知(しらず)不識(しらず)」和合恭子「こころの眼」を対象に行われた。オンライン参加も含め九名が参加。司会は乙部宗徳氏。

 「不知(しらず)不識(しらず)」の報告は横田昌則氏が行った。横田氏は「日常のなかに潜む問題をうまく描きとった作品。またしらずすらずのうちに周囲の空気に同調して流されている主人公の姿は現代の情勢に対する警告とも読めた。登場人物のあだ名がユーモラスで、その人物像を浮かび上がらせる上で効果的な役割を果たしている」と報告。参加者からは、「日常だが、巧妙にドラマチックに描かれていて、楽しく読まされた」「同調圧力に対してどうするかが読み手に突きつけられる」「町内会長を十年やっていたので身近に感じた。政治状況を突きつけられて、ドキッとされられたところがあった」などの意見が出された。

 作者からは「しらずしらずのうちに戦争になっていく、そんなことが自分の生活にどう表れているか考えてみた。自分が住んでいる団地を舞台にした、日常であるだけに、創作上は工夫をしてみた」と発言があった。

 「こころの眼」の報告は佐和宏子氏が行った。佐和氏は「障碍児施設に勤務する保母と担当する視覚障碍児二人を中心に、視覚障碍に向き合う日常が感動的に描かれている。多くの人にとっては、あまりなじみのない障碍児施設であるが、それだけに視覚、聴覚、その他の障碍児とのふれあいの日常が描かれることは貴重である。障碍児教育は教育の原点ということをかつて学んだことを思い出させられた」とストーリーをていねいに追いながら報告をした。参加者からは、「二人の障碍児とのやりとりがよく描かれている。歩行訓練をして次につながる展開もよかった」「自立のためのカリキュラムを立てて、実践していくところの描写がよく描かれている」「大変な労働条件のなかで、障碍を持つ子どもたちとのふれあいを大切にしていくところがよかった」などの意見が出された。作者からは「福島での原発事故が起きて、あの時の子どもたちは無事に避難しただろうかと思い、その子どもたちのことを書かなければと思い書いた。いっしょに遊ぶ仲間のような存在だった」と語った。
                              (高野裕治)

 
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