「作者と読者の会」 2023年08月号



 七月二十八日午後六時から約二時間、八月号の作者と読者の会が開かれた。文学会事務所とオンライン、合わせて十七人が参加した。

 まず、最上裕氏が渡部美次氏作品「柿の木」について報告した。作品は、卑劣な会社の攻撃にひるみそうになりながらも、信頼できる仲間と闘いに立ち向かう青年の成長を描いている。新たな歩みを覚悟するところが、すがすがしい。会社の思想干渉攻撃がリアルに描かれて、胸に迫ってくる、などと報告した。また、一九七〇年頃の闘いを描いた作品だが、回想にとどまらないようにするには、どうしたらよいだろうかという問題提起もあった。

 次のような意見が交わされた。私の経験したことと似ている。半世紀前の闘いを思い出し元気になった。葛藤をもっと描いてほしかった。主人公の子供世代だが、肩に力を入れないで読めた。丁寧に書かれているが、終りの方をちょっと急ぎ過ぎた感じがする。いまの若い人に通じるかどうかはわからない。登場人物が自分に似ていると思えれば、読まれるかもしれない。

 作者は、自分が影響を受けた先輩を小説として残したかった、生きづらさを抱えている人が多い現状などが創作の動機、時代背景をもっと入れなければならなかったなどと述べた。

 次に、かなれ佳織氏が須藤みゆき氏作品「ねこファミリー」について報告した。「私」が疑似家族に求めるものは多く、また関係が深まるに従い「私」が作り出した疑似「家族」であることも理解している。家族の意味、また他人同士が手を差し伸べ合って生きる意味を探ってゆく。「私」の思考回路を駆使して結末へ導く家庭や人物が大変面白く書かれているなどと報告。

 次のような意見が交わされた。三人は婆さんによって結び付けられているので、ばあさんがいなくなれば、ドラ息子とはいっしょに居なくなるだろう。「私」の救いの物語となっている。ばあさんへの愛情が感じられる。八〇五〇問題を象徴的に描いている。援助が必要な所に手がおよばない政治の貧困への告発となっている。疑似家族の中でも再生できるという再生物語。現実離れしていて、現実的には考えられない話だ。

 作者は、救っているつもりが私が救われていること、三人をつないでいるのはばあさんであることなど、皆さんの意見でいろいろ気づかされ、考えさせられた、連作のように読んでくれているのがうれしかった。生きる力にしていきたいなどと述べた。
                          (仙洞田一彦)
 
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