「作者と読者の会」 2023年03月号



                  「作者と読者の会」

三月号の「作者と読者の会」は二月二十四日(金)に、矢嶋直武「カササギの声が聴こえる」、柴垣文子「汽笛」を対象に開かれた。参加者はオンラインを含め十三人。司会は牛久保建男氏。

 「カササギの声が聴こえる」について、宮本阿伎氏が報告をした。宮本氏は、作品の構成と内容について一から四の章ごとに詳しく述べた。作品のテーマを「『ヘイト』がどれほど外国から日本にやってきた人々を傷つけるものかを直接的な主題にしている」と報告。ていねいな小説の仕立ては、精緻に作られた美術品のような趣さえある、と感想を述べた。討論では、ヘイトの場面が、いまこういう状況にあることがよく伝わる。中国、朝鮮、日本の交流や「言葉」の持つ意味について考えさせられた。同じ「言葉」でも文化、歴史があることが描き出されている、などが出された。

 作者は、「ヘイト」が広がっていた二〇一六年の横浜を設定した。「言葉」の問題を意識して、日本人の排他的なところと対峙するものとして、七夕の物語とそこに登場するカササギの力のようなところを書いたとのべた。

 「汽笛」につては鶴岡征雄氏が報告。鶴岡氏は青年教師の踏み出しを山峡の小学校を舞台に描いた作品と紹介し、短編小説にとって何が大事かを、小林多喜二の短編も参考しにしながら問題提起をした。「短編は、横に広げるのではなく、深掘りをすることが大事ではないか」と述べ、作品の中でさまざまな状況は説明されているが、人物像が薄くなってはいないか、主人公が共産党に入党するが、その必然を感じさせるように描くことが必要ではなかったかと報告した。

 討論では、主人公の教育実践と思想の深化、特に同僚や教頭、校長は敵ではないという捉え方には感銘した。学校の宿直室での交流の場面など時代の雰囲気をよく捉えている。主人公の心の動きとつながった状況描写がよかった、などが出された。

 最後に作者は、いまの若い人たちの過酷な職場での働き方などに接して、なんとかならないかという思いで書いたと、作品を書いた動機を語った。
                 (高野裕治)

 
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