■ 「作者と読者の会」 2023年01月号■
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「作者と読者の会」
一月号と二月号の作者と読者の会は、一月二十七日(土)に行われた。参加者は、オンラインでの参加も含めて十人であった。
一作目の松本喜久夫作「いのち輝いて」は、能島龍三氏が報告した。能島氏は、作品が、障碍者作業所に就職した若い主人公が、福祉の仕事に意味とやりがいを掴んでいくという大きなテーマに挑戦していることを評価し、そのテーマにどこまで迫れているかという技術的な課題を解説した。わかりあえるという物語の山場に向かい、早苗(主人公)と山岡(施設利用者)との軋轢と葛藤は、もっと心の動きに集中して書ければよかったのではないか、主題が散漫に感じられるのは、名前を与えられた登場人物が多すぎることにもあるのではないかという指摘等がなされた。登場人物を絞った方がよかったのではないかという感想は、他の参加者からも出されていた。障碍者施設の苦労たるや大変で、その現場をよく整理されて書いたと思う、難しいテーマによく臨まれた、こういう作品に巡り合うことは少なくなった、等、障碍者施設を舞台に一生懸命に生きている人たちを描こうとした作者の姿勢に感銘を受けたという感想も多く出された。作者は、東大阪のメーデー前夜祭で上演された「ひびき作業所」という寸劇をヒントに作品を書いた。学校や施設訪問もし作業の様子をみせてもらったりもしたが、取材が弱いということは自分でも感じている、と述べた。
二作目の北原耕也作「壊れたカメラ」は、須藤みゆき氏が報告した。須藤氏は、壊れたカメラは震災による「喪失」「誇り」「痛み」の象徴であり、それを修理しようと父が思うという最後の場面に「喪失からの再生」「誇りを取り戻す」「痛みからの回復」の予感を感じられると、読後感の良い作品である点を評価した。作中、四度繰り返される「大丈夫ですよ」という父の台詞の配置や、カメラの壊れたところがピントの狂いである点、娘である糸子の喪失体験(破談)を入れた理由について等が議論となり、象徴的な事象の取り入れ方に成功しているという点でも評価が高かった。また、須藤氏は、「あらすじにはその人がその作品をどう読んでいるかということが表れる」と述べられ、自身が一度目に書いたあらすじと二度目に書いたあらすじを比較したレジメを用意されて、読み込んだ後「あらすじ」の取り方が変わっている点を説明された。あらすじを丁寧にとることが作品理解の上で重要であると須藤氏に指南したのは、山形暁子さんだそうである。 (竹浪協子)