「作者と読者の会」 2022年11月号



 十月二十八日(金)「作者と読者の会」がオンラインで七名、会場参加四名、計十一名の参加で行われた。司会者牛久保建男氏。 

 牛尾昭一作「三人の造船工」は報告者仙洞田一彦氏。この作品の主題は三人の造船工の歩みを通して主に一九七〇年代の労働運動の高揚と資本の分断攻撃によって労働運動が衰退する様子を描いた。

 参加者からは、一九七〇年代の組合分裂した時の闘いが分かった。私自身直接労働運動の経験はないが、小説を読んでよく分かった。その意味で小説で描く意義は大きい。課題としては、登場人物はアルファベットではなく名前ではっきり書くとよい。Aの手紙は成功しているか?手紙があることによって第一組合執行委員の心理を追えるのはいい。しかし、場面で描いた方がいい。手紙は途中で終わっている。最後まで書いてほしかった。Uが真実の敵をどう受け取るか最後に書いてほしかった。

 作者からは、「登場人物は今後は名前で書くようにしたい。テーマは現代の問題を取り上げなければ、と思ったが、こうした過去の労働運動の作品も大事だ、と思った。

 篠田佳希作「フリージアを抱いて」報告者塚原理恵氏。この作品の主題は介護の仕事に興味が持てず辞めたいと思っていた氷河期世代の主人公が高齢女性の介護に関わる中で命の尊厳を大切にした介護に目覚めていく物語で介護の仕事を通して成長していく主人公の姿を描いている。

 参加者からは、介護現場で働く若者がいろいろな人と交流する中で働く大切さに目覚めていく成功作品の一つである。作品は食べる、という生きる根源に迫っている。家族の介護の経験を思い出して、主人公が八重さんの口元に重湯をやる場面では、思わず涙が出た。主人公は八重さんが亡くなった後でもエンゼルケアを手伝って成長したところがいい。課題としては登場人物を絞ってほしかった。最後の場面で主人公が八重さんの胸にそっとフリージアを置く場面で、フリージアを買う場面があるとぐっとくると思う。八重さんは両手両足の麻痺がある。全面介助しなければならない彼女の状態が伝わってこない。それは、この作品では八重さんの会話のテンポが速いからと思う。

 作者からは、登場人物が多いのは今後気を付ける。主人公を男性にしたのは私が働いていた職場に氷河期世代の男性がいたので男性を主人公にした小説を書きたかった。「ぼく」の人間としての生き方を追求して描くことが大切であった。

               (青山次郎)
 
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