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作者と読者の会
九月二十三日(金)午後二時よりズーム七名事務所五名計十二名が参加して開催された。司会は牛久保建男氏。
最初に十月号石井斉「青空」を乙部宗徳氏が報告した。乙部氏は「青空」についてレジュメに沿って解説した。作品は前作「街路樹」の続編で、登場人物も前作に登場した人が多い。「青空」では四十年にわたる社会的入院から退院が決まり、退院の日までの時間に「入院に至る経過」「同室の河島英二の記憶」「幼い頃の家族旅行の思い出」の回想が入る。その中で「社会的入院」が障害者の人権を否定するものであること、社会的自立の困難さとその大切さを社会的視野からとらえようとしている。退院してからの次作を期待すると乙部氏は述べた。
討論では、「とてもリアルな描写である」「社会的入院が四十年という衝撃がとらえずらい」「病気になってしまう理由やどんな症状が出るのかわからない」おねえさんと姫野さんにも葛藤があったはずではないか」と意見が出た。
作者は社会的入院を三十年している人を知り、ショックを受けた。精神病院に四十年入院している姫野のつらさや揺れる心を一番描きたかったと述べた。
九月号風見梢太郎「米寿のプロポーズ」を松木新氏が報告。松木氏はレジュメにそって報告した。作品の特徴を、同性愛を恥から誇りに転換。米寿を過ぎた主人公の恋がみずみずしい感性にもとずくものである事を、ゲイ小説の伝統的なメタファーである水辺と手の描写によって巧みに描いている。作品が明らかにした事として、性的志向は個人の性別と恋愛感情の向かう先の性別は連動していない。LGBTQの社会構造に根をもつ差別の問題を個人の心の問題と矮小化してはならない。同性愛者に対する差別の問題を歴史的視座で捉える事が重要である。また最後に前作「庄吉とおじいちゃん」も報告した。
討論では、「前作よりすんなり入っていける。テーマが難しい」「一つの恋愛小説として読めた」「多様性を受け入れられない自分の価値観が揺らぐ。多様性からすると日本はすみずらい」と意見が出された。作者は、最後の時をどう過ごすか、一つのゲイの人たちのモデルがあった。同性愛の姿を美しいと感じて欲しいと述べた。
(内田美子)
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