「作者と読者の会」 2022年08月号



 八月号の「作者と読者の会」は七月二十二日(金)午後六時からオンラインにて十四人の出席で開いた。司会は牛久保建男編集長。

 塚原理恵「エンゼルケア」はかなれ佳織氏が報告し、「コロナ禍のもと緊迫し試行錯誤が続く医療現場を病院スタッフの命がけの奮闘を通して捉えた」「『エンゼルケア』に焦点を当て」「人間の尊厳は守られているか」と問題提起をした。「美穂の心情の変化」「医療従事者の思いを描くことによって患者をないがしろ」にしている国の医療の現状、行政への憤りを表している、と作者の思いを語った。

 討論では、想像力がすごい。わかりにくい医療現場をよく書いてくれた。テレビ、新聞では得られないものがあった。具体的に描かれているので、ニュースでは解らない現場の人たちの気持ち、生の声が伝わってきた。小説にすることの大切さを学んだ。その一方で専門用語が出てくるので解りにくいといった意見もあった。

 塚原氏はこの作品は支部誌に発表し、支部の合評、埼玉研究集会の合評を経て、書き直した。専門用語をいかに小説の中にいれこむのか、注意して書いたと創作での苦労を語った。

 瀬峰静弥「二十歳の糸口」は仙洞田一彦氏が報告し、「つまずかないようにと靴紐を結んでやる行為に象徴される後輩への思いやり。愛」と主題をいい、「細部まで気を配っている伏線や描写」と具体例をあげ、気になった点として「学歴社会」も一つの要因であるが、「自分の職場の大卒を『敵』としてしまうと、経営側の労働者『分断』政策にまんまとのせられてしまう」から「職場の先輩として分断、格差社会の根っこも視野に入れる」「助言が必要かもしれない」と指摘した。

 討論では、人物の形象がうまい、台詞がいきいきしている、テンポがよいと評価しながら、人物を掘り下げる描写が必要との注文があった。田中三十八歳、たっちゃん二十歳と絶妙な年齢設定。中味がありふれたネタだが、ありふれてない。どきどきしながら読んだ。

 たっちゃんがお金にこだわる背景は何か。学歴社会だけなのかといった疑問も出された。
 瀬峰氏からは実話を基に書いた。たっちゃんのモデルは何人かいた。それを一人の人物に統一した。成人式、悪徳商法、野球強豪校のエピソードをどのような順番で書いたらよいのか、工夫した。                   (石川 久)

 
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