「作者と読者の会」 2022年07月号



 七月号の「作者と読者の会」は六月二十四日(金)にオンラインを含めて十四人の参加で開かれた。対象作品と報告者は、三原和枝「家」を工藤勢津子氏、中原遼「新しい日常へ」を久野通広氏が報告をした。司会は牛久保建男氏。

 「家」について工藤氏は、福島の原発事故以降誰の胸にずっとあっただろう怒りが作者をこの作品に導いた。家は人々の努力の積み重ねの結晶であり、誰もが人生に求める、平穏と幸せの象徴、それを毀してしまった「原発事故」の告発と、苦難にめげず前向きに生きようとする人間像がテーマとなっている。事故とその後を伝え続けていくことは重要になっており、この作品が書かれた意義は大きい、と作品のモチーフとテーマについて報告した。また、全体としてたんたんとした書き方になっていて、激しい感情、熱いものを感じさせる山場の場面があったら、なお感動的なものになったのではないかと述べた。

 参加者からは、家と主人公自身の再生が印象的に描かれている。穏やかな感じで書かれているが、前を向こうとする主人公の姿に共感した。細部を丁寧に描かれていて、そこから大きなテーマに迫っている、などの意見が出された。作者からは、このテーマで書いた三作目、取材不足のところを感じるが、自分自身の思いを書いたと述べた。

 「新しい日常へ」について久野氏は、コロナ禍のもと、子どもたちに押し付けられた「新しい生活様式」にたいし、大人たちはその現状をどう考え、行動すべきかを問いかける作品となっている。コロナ禍で疲弊する大人と子どもの困難を題材に、学校生活の中での子どもたちの困難によりそい、何とかしたいという親心から、署名活動に踏み出す主人公の気持ちの変化と成長が、丁寧に描かれていると報告。

 参加者からは、自分の子どもを通して、日常性が揺らいでいることを描くところに共感した。父親が母親や子どもたちの中で変わっていく姿が印象的だった。教師の立場ではなく、親の立場から教育を見ている作品は珍しいのではないか。まとまりすぎていて、結末に簡単に行き過ぎている感じを受けた、などの意見が出された。作者からは、男親のあきらめ感や無関心、一方で女性は元気、そんな中で男親も変化、成長しなければと思って書いた。まとまりすぎている点は、人物場などでもっと工夫が必要だったと思うと述べた。
                              (高野裕治)

 
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