「作者と読者の会」 2022年01月号



                  「作者と読者の会」

一月二十八日、午後六時から、オンライン十一名、事務所二名、計十三名の参加で開催された。東善啓「私とウナリ神様」を岩崎明日香氏、能島龍三「カメラッド」を岩渕剛氏が報告。司会は牛久保建男氏。

 岩崎氏は、「私とウナリ神様」について、読後感がさわやかで時代の流れと響き合っている。三代の女性が世代を超えて連帯を築く場面が、味わい深く希望を感じる。男性がジェンダー差別を具体的に描いていることに励まされた。佳子が島での生き方を模索し、答えとして「オスプレイ退治」と共産党の活動に行き着き、ジェンダーと平和がテーマとして探求されている。佳子の離婚をめぐって、子どもの養育費などに言及していないのが気になった、と報告した。

 討論では、佳子の語り口で引き込まれるが、それで作品が軽くなっていないか、島の自然、風土を魅力的に作品に取り込んでいる、ジェンダー問題も含めて新しい共産党員像を描いていて面白い、などの意見が。作者は、主人公にはモデルがいる。共産党に入党したがどういう活動ができるか悩んでいたので、彼女にエールを贈るつもりで書いた。佳子の離婚では、子どもの養育費問題までは考えが及ばなかったと述べた。

 岩渕氏は、「カメラッド」について、正憲の登山会の先達である大井との出会いと別れを描き、青年期の生き方を考える作品である。とくに戦前に権力の弾圧で同志を裏切ったと負い目を抱えて生きてきた大井のような人でも、立ち直って運動をやっていける幅広さを感じる。大井の生き方を、正憲が理解できたのは教師になり教育現場の矛盾に直面してからであるが、現代でも「裏切り」を迫る動きもあるし、大井の生き方は過去のものではない。また、正憲が登山会を止めたが、専門的登山をすることと社会変革を志す生き方の両立は不可能だったのか、との問題提起があった。

 討論では、大井のような人々のたたかいと苦悩をどう受け止め、戦後にどう生かすかを考えさせる、正憲が大井の生き方を理解し、同志として受け入れた場面に感動した、大井の告白の重さとそれを青年に語り継ぐことの意味が伝わってきた、等の意見が出た。作者からは、大井のモデルから体験を聞いたときには返す言葉がなかった。人はどう生きるかを描きたかった、と述べた。               (久野通広)
        

 
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