「作者と読者の会」 2021年12月号



                「作者と読者の会」

十一月二十七日、十二月号「支部誌・同人誌推薦作品」の五作品を対象とした作者と読者の会が二十三名(ズーム十四名、事務所九名)の参加で行われた。司会は、牛久保建男氏。

 優秀作・松本凛「じいちゃんが死んだ」を、風見梢太郎氏が報告。風見氏は登場人物・批評に分け説明した。人が死に向かう姿が若者の目をかりて冷徹に描かれ、重い題材であるにもかかわらず、ユーモアのある文章によって、明るく描けていると報告。作者は、小説を書くのは初めてで、実体験を小説として書いた。介護の苦労やお金がかかること、それを、自分の目線より息子に言わせた方が書きやすかったと答えた。身につまされる作品だ。と語る参加者の声もあった。

 遠山光子「ブドウ団地」は、青木陽子氏が報告。青木氏は、山中支部の人々の人情味あふれる様子やブドウ団地の描写など、イメージ豊かに描かれていると評価しながら、会話について(清子と悦子)一人ひとりの個性を台詞に反映する意識をもってほしいとのべた。また、時間の経過が曖昧であることを指摘した。作者は、以前は入党基準は厳しかったが、今は政男のような人間も党に迎え、党活動をやっていることや、地域の特産ブドウ農園のことも書きたかったとのべた。

 牧野三太「生まれは上野黒門町」について草薙秀一氏は、弁当を届けてくれる三郎や知子の描写が良く、家族の描き方もみずみずしさがあると評価。参加者からは、戦争に向かってゆく時代の雰囲気が良く出ている等の意見がだされた。作者は、六十歳になってから小説を書き始めた。母親から聞いた話が土台で三郎などは創作した人物であることなどが紹介された。

 森ゆみ子「ばあちゃんの匂い」の報告は東喜啓氏。東氏は、中学で臨時職員の心の相談員とし働く千恵が、高校進学を断念しようとしている奈波の将来を思い、教頭に意見する姿に、希望を読みとった。また教頭の描き方も管理者としての人間性を浮きぼりにする描写だったとのべた。参加者からは、千恵のカウンセラーとしての生き方、テーマがはっきりしていて、素直に読めたとの感想がのべられた。作者は、問題を抱えた生徒に、先生や児童相談所も動いているが、事態は一向に変わらない。そんな生徒に寄りそう「心の相談員」(シルバーセンターの時給より安い)の現場を書いたとのべた。

 米田十二「ありがた山」(作者欠席)について櫂悦子氏は、何も考えずに翻弄される民衆、居場所のない男の姿がえがかれた、創作力がすごい、現在にも通じるものがあると報告した。米田氏と同じ支部の人から、彼は三作目でその都度作風を変えている若い書き手であることが紹介された。

 最後に「リモート授賞式」が行われ、能島龍三氏から各入選者に賞状が贈られた。
                     (島田たろう)

 
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