「作者と読者の会」 2021年07月号



                「作者と読者の会」

六月二十五日(金)オンラインにて開催。オンライン十五人、事務所二人が参加。
 七月号、村城正「ガラスの城」を横田正則氏、馬場ひさ子「朝食」を櫂悦子氏が報告。

 横田氏は、いま、なくてはならない存在のコンビニの仕組みをわかりやすく書いている。最後まで読者を飽きさせず読ませる。題材自体も高く評価されるべき。夫の死や強盗事件は、大きなできごとのはずだがエピソードの一つとして扱われている。もっと印象深く描いてもよかったのではないか。そのことで主人公がコンビニ経営をつづけていく姿勢に説得力をもたせることになったであろう、など報告。
 会場の議論では、当初、時代設定についてのやりとりが多かった。時代のとらえ方が人によって違う。これに対し、「醍醐味である、コンビニについて本部だけが大もうけする仕組みを誰でもがわかるように書いているという点に注目したい」との発言あり。作者は「身近に数千万の借金を抱えてつぶれたコンビニのオーナーがいて問題意識をもった。契約時に本部は甘い言葉で誘う。からくりを解明したかった。今後も社会性のある作品を生み出していきたい」とのべた。

 櫂氏は、あらすじは省略。小説の魅力の一つは「見えないところが見えてくる」ことだが、登場する客については主人公の観察と風聞に終始している。創作するなどして、客がどういう人間なのかが「見えてくる」書き方はできなかったものか。共感しつつ読めるが、「なぜこの四人が選ばれたのか」「主人公はどう生きていこうとしているのか」が浮かび上がらないと問題提起。
 会場からは、大衆食堂で働く主人公が出会う客のエピソードをつづる本作を、「小説の書き方として問題意識が鮮明でなくても、登場する人間から出発する手法もあり、本作は後者。他に代えがたい魅力のある作品」、「文章のセンスが抜群」、「客の観察眼が卓越している」など高く評価する意見が相次いだ。作者は「家族を失った主人公が客とのふれあいからエネルギーをもらって生きてきたことを書きたかった。それが伝わってようでうれしい」と発言した。
                               (杉山成子)

 
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