「作者と読者の会」 2021年03月号



                  「作者と読者の会」

二月二十六日(金)午後六時より、オンラインで開催。オンライン十四、事務所二名が参加。大浦ふみ子「かたりべ」を原健一氏が、小林信次「父の遺言」を能島龍三氏が報告。司会は牛久保建男氏。

 原氏は、「かたりべ」について、在日の被爆問題に一般の日本人の視点をいれたことで在日韓国人被爆者への偏見の一端を明らかにした。ヨンスの身の上話そのものが「小説」であり、あまり知られていない韓国人被爆者の生きてきた背景や苦悩が強く伝わる。高校生白石が「かたりべ」となっていくことを予感させ、読者も新しい連帯の世界に踏み入れることができると報告。 討論では、重い問題をよく書き上げた。ヨンスの人物像がよく伝わる。問題提起があるが言いっぱなし、未解決な部分があり議論になる。原爆投下を良しとするようなスヨンの思いについて、作者は戦争責任を問う視座をこめてほしかった。ヨンスが語り部を続ける動機は? 高校演劇部や白石の描き方に不自然さがないかなどの発言があった。作者は、巻き添えにされた韓国人被爆者をもっと知りたいと三か月準備。読んでいただき感謝を申し上げると手紙に記した。

 能島氏は「父の遺言」について、戦争体験者の話を作品にしたことは大変貴重。現在と回想が入り交じるが整理され必要最低限の人物設定で読みやすい。だが父が苦悩してきた実相は具体的ではない、調査想像のうえ作品世界を構築してほしいとし、兵士・兵隊・大将など誤った表現を訂正。刀は短剣ではなど助言をした。
 討論では、方言がいいし自分が馴染んだ風景や思い出に親近感をもった。戦争の本質を親から子へどう伝えるか考えた。父子の不和の原因、三十年和解できなかったいきさつ、葛藤が書き足りずもったいない。年表作りが必要などの発言があった。作者はモデルは明かせないが聞き取りし書き直した。小説の力を感じとれたと今後の決意を述べた。
                            (かなれ佳織)
       

 
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