「作者と読者の会」 2020年12月号



                  「作者と読者の会」

十二月号に掲載された支部誌・同人誌推薦作品の作者と読者の会が、十二月十二日にZoomを使ってオンラインで行われた。参加者は二十六人とかつてなく多かった。今回は五作品になり、一つ一つの作品について詳しい報告ができないのはご容赦を。作品の掲載順に報告者の話のあと参加者が意見を出し、最後に作者から話を聞くという進め方で、司会は編集長の牛久保建男さん。

 最初に「群青の彼方」(五十嵐淳『河口』)について。報告者の乙部宗徳さんが「優れた作品である」としたうえで「かん奈が述べる『別れの言葉』を全文載せたのはどうか」と指摘した。これには参加者から「途中で参加者の反応を入れる」「指導した樋山先生の気持ちも描いたら」などの意見が出された。作者は「支部の皆さんからも同じ指摘を受けた」また「ほぼありのままを書いた。かん奈が高校でラグビーをやるのも後から聞いた事実」など作品の背景も語った。

 「寸借詐欺」(平良春徳『もえぎ』)について仙洞田一彦さんが「深刻な問題をあえてコミカルに描いていることも効果的。筋の運びも周到」と報告した。参加者からも「今日を生きるための行為」という現実や「主人公の息子への気持ちが重なってくる」という指摘があった。

 『もえぎ』は創刊号だが、続く「保健室風景」(林幸代)も『白南風』の創刊号に掲載された作品。岩崎明日さんが「養護教員の視点で保健室登校の子どもに寄り沿って描いている」と報告した。創刊号を準備した福岡支部の堤輝男さんから「作者は創作に喜びを感じている」という希望を感じさせる発言があった。

 創刊号が続いた後の『りありすと』は八十号という長い歴史を築いている。「マスク」(星川たか子)について報告者の橘あおいさんは「民主化運動を阻止しようとする香港政府や、新型コロナ感染で差別や偏見を生む社会への風刺をきかせた作品」と紹介した。描かれた時点ではインフルエンザの感染はあったが、まだコロナ感染が問題になる以前のこと。これについては「文学作品が時代を先取りする」という発言や「野球でいえば直球が多い『民主文学』では変化球で投げた作品」という指摘もあった。作者は「直球で描く作品はあまり得意ではない」としたうえで「十年ぶりに書いた作品」ということだった。

 最後の「闇」(勝手三郎)も『名古屋民主文学』の百十五号という長い支部活動に支えられた作者である。工藤威さんが「普通の生活を送る中での思いがけない事故と、濡れ衣を押し付けられそうな理不尽な経験」と報告した。その後、「最後の場面が将棋の対局で終わるのはどうか」「裁判で闘うという展開もある」などの意見が出された。法律に詳しい参加者からの「創作のうえで曖昧さを残さない」という指摘は、書き手に取って重要なことである。

 合評のあと授賞式がオンラインで行われたが、事務室で参加した星川さんは直接受け取った。その後、飲み物持参で懇親会が楽しく行われた。(原健一)
         

 
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