「作者と読者の会」 2020年11月号



                  「作者と読者の会」

十月二十三日(金)午後六時より、オンライン会議で開催。中寛信「何もないこと、全てがあること」を浅尾大輔氏が、池戸豊次「神楽」を宮本阿伎氏が報告。司会は牛久保建男氏。事務所参加五名、オンライン参加十一名。

「何もないこと、全てがあること」について浅尾氏は、です・ます調など表現が独特で、最小限の説明によって読者に考えさせるなど文学を読んでいるという実感があった。中国の学生の暮らし、日中間の諸問題について情報を得られた。通訳の女学生とのやりとりで、知的で倫理的な内省を求める出来事が展開され、なぜと聞く前に自分で考えない人は一生かけても何かを知ることはできないと厳しく叱咤する小説であると報告した。討論では、構成、視点がユニーク、加害者の日本人が中国人とどう向き合うのかと読者に預けている。女性像が魅力的だ。タクシーのくだりで、なぜ怒らないのかと不意打ちされた気がしたとの意見が出た。作者は、体験したことを文字にすると説明不足になることを痛感した。紀行文、レポートとして書いたもので、創作ではない。これからも投稿したいと語った。

「神楽」について、宮本氏は、作者紹介から始め、池戸氏の文学は民主文学の中でもユニークな位置にあると評価し、本作については、お婆の死の悲しみが、通奏低音になっている。村人たちの人間像が生き生きと描かれており、その中でテルが人の温かみを知り成長していく姿を描いていると報告した。討論では、文章が丁寧で静かな筆致。文体を持っていて、大きなものを粘り強く書き、長編で力を発揮すると思う。村の雰囲気が良く表現されている。テルが二十一歳にしては老成している気がする。場面が映像として浮かんできたとの意見があった。作者は、中さんの作品のような大きなテーマはなく、田舎の小さな世界である。連作の第一章で、引き続きテルの成長を描き、五編くらいにまとめるのが目標と語った。

              (最上裕

 
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