「作者と読者の会」 2020年8月号



                  オンライン「作者と読者の会」

七月二十四日、午後六時より文学会事務所でオンライン会議にて開催し、福岡、名古屋、関東近県などから十九人が参加。八月号から高橋英男「もう一つの顔」を櫂悦子氏が、岩崎明日香「プリザードフラワー」を松田繁郎氏が報告した。

「もう一つの顔」について櫂氏は、地域の民主的診療所事務長である江田が、仲田医師(所長)の悩みに寄り添いながらも、医者としては優秀だが問題を起こす彼女への対応に悩み、葛藤する姿が目に浮かぶように描かれている。同時に、仲田所長の問題行動の原因を心の病気と設定したことで、逆にテーマを深める上で制限をかけたのではないかと報告。

参加者からは、一九八五年頃という時代設定だが医療現場の苦労という点では現代に直結している、仲田医師の言動は「もう一つの顔」というより人にはあることだと思う、江田が仲田を守ろうとする余り問題をどう解決していくのかが見えなくなっている、タイトルは再考の余地がある等の意見がだされた。

作者からは、指摘のように仲田医師の二面性を「病気」と描いた点は弱点としてあったので、次の作品に生かしていきたいと発言があった。

「プリザードフラワー」について松田氏は、文部官僚になるために政治に関わりたくないと思っていた緋沙子が、「姉のような人が報われる社会にしたい」と変化する様子が印象深く描かれている。自己責任論への批判的視点から、「私」空間に閉じこもりがちな若い世代が、いかに政治の世界に接近していけるのかという作者の問題意識が伝わると報告。

参加者からは、緋沙子の姉への感謝の気持ちと大学で学問ができる喜びがすごくよく描けている、同じきょうだいなのに姉の境遇への憤りがデモに導かれる過程に説得力がある、緋沙子の悩みに親身になって援助する民青同盟の描き方がいい、文部官僚になるという緋沙子の本気度が少し伝わらない等の意見がだされた。

作者からは、最初は父親の暴力の場面に引きずられていたが、書き直してテーマを追求出来て良かったと発言があった。

         (久野通広)

 
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