「作者と読者の会」 2019年11月号



            作者と読者の会

 十月二十五日(金)、十一月号掲載作品の「作者と読者の会」が、大塚の文学会事務所で行われた。参加者はスカイプ参加一人を含めて十一人で、司会は牛久保編集長が行った。

 はじめに最上裕「波濤の行方」をたなかもとじ氏が報告した。報告は同作品と時代も人物も重なる「オルモックの石」(今年七月号)にも触れていた。テーマは「戦争で犠牲になった家族の死の真相を抉り出しながら、戦争を告発した作品」であると捉え、良く調べて書かれているとともに、「作者の記憶と想像力がリアリティを持って迫ってくる」と評価した。一方「第9節は……描写より、事の経過が説明されていて惜しい」などとも報告された。
 討論では、自分の家族と環境が似ていて感動したとか、当時の田舎の状況が良く描かれているなどの意見とともに、戦争の悲惨さが伝わって来ない、ハルの心の揺れを描いてほしかったなどの意見も出された。
 作者は、親の人生を書いて残したかった、書いたのは発表順と逆で「波濤の行方」が先、「オルモックの石」が後、などと述べられた。

 二つ目の作品は木曽ひかる「人身事故」で、久野通広氏が報告した。「奈美の不幸な生い立ち、離婚、娘の問題と、ハヤタの過酷な状況、自殺した若い女性を重ね合わせ、生きがたい酷薄な社会状況を浮き彫りにしている。構成上も破綻無くまとめている」「作者の現代青年に寄り添おうとする温かな気持ちがにじみでている」などと報告。
 討論では、わかりやすい作品、三人の若い女性とハヤタが生きている、ケアマネージャーが実生活のなかにあるので考えさせられながら読んだ、読後感が良いなどと評価された。一方、福祉を選んだ転機となったものが書かれていない、出来事を盛り込み過ぎなどの意見も出された。
 作者は、実際は高齢者の事故だったが、「若い女性」に置き換えて書くことをひらめいたなどと述べられた。
                                        (仙洞田一彦)

 
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