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作者と読者の会
七月二十六日(金)の作者と読者の会は、午後六時より文学会事務所にて開催。篠田佳希「彩子の朝」(八月号)を櫂悦子氏が、原信雄「巴波川」(同)を風見梢太郎氏が報告。司会は牛久保建男氏。参加者九名のうち、スカイプ参加が一名。
「彩子の朝」について櫂悦子氏は、五十代で介護職に転職した経験の浅い主人公が、職場で起こる様々な問題や困難と誠実に向き合い、それを乗り越えていくまでの過程を描いた作品とし、主人公の物事に対する素直な態度が作品全体をとても生き生きとさせていると報告した。
討論では、全体をとおして生活感があり、労働現場がよく描けている。被介護者の世話をする描写がリアル。介護職の大変さが伝わってきた、などの意見が出された。他方で、ノンキャリアの独身女性の苦悩についてもっと掘り下げてもよかったのではないか。主題が明確化されておらず、筋が一本通っていない印象を受けた、という意見もあった。作者は介護職の〝外からは見えない〟現場の姿をもっと多くの人に知って欲しいという想いから執筆に至ったと発言した。
「巴波川」については、風見梢太郎氏から報告があり、これまでの作者の作品群に馴染みがあるとした上で、本作を多様な世界観の作品系列のなかの〝少年時代もの〟に位置づけられると分析。昭和三十一年頃の栃木市の風景や、独立して野州新聞を出版するようになった父やそれを支える母の姿、貧困にあえぎながらも懸命に生きようとする市井の人々の姿を少年の眼差しで描いた作品と評した。
討論では、川遊びの場面が印象的。両親のことを温かく描いている。父の人間味あふれる姿に惹かれる。冒頭から違和感なく小説世界に入っていけたなどの意見が出された一方で、時折視点の揺れが見られる。一人称で描いたほうがもっと効果的だったのではないか。子どもが納豆売りのアルバイトをしている姿に驚愕を覚えたという意見もあった。作者は作中の新聞のモデルとなった出版物、資料等を持参で出席し、郷里に対して深い思い入れがあり、それを〝巴波川〟というタイトルに込めたかったと力説した。
議論はほどよい緊張感のなかで行われ、参加者全員の相互理解に努める姿勢が際立つ集いとなった。 (田本真啓)
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