「作者と読者の会」 2019年6月号



            作者と読者の会

 五月三十一日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。秋吉知弘「まんまんちゃん」を乙部宗徳氏が、池戸豊次「寒晒し」を仙洞田一彦氏が、山本洋「連絡B」を井上文夫氏が報告。司会は宮本阿伎氏。参加者十一名。スカイプ参加二名

 「まんまんちゃん」について乙部氏は、「うつ病」から社会復帰するために療養型病院でパートをしている四十歳近い主人公が、戦争体験を引き継ぐことに自分の社会的役割を自覚し、職場と家庭において自己肯定感を持っていく姿を描いた。若い世代の生きづらさだけではなく、自己肯定感を描いたところが新しいと報告した。討論では、戦争体験を引き継ぐという社会的なメッセージを出せるのはすごい。初めて小説を書いたとは思えない。主人公の仕事への姿勢では、主人公の人間像と作者の人間像にずれが見られる。表現がワンパターン。との意見が出た。作者は、所用のために欠席だった。

 「寒晒し」について、仙洞田氏は、小説を書きなれている印象を持ったとして、作品のあらすじをたどりながら、「死」に関連する出来事が効果的に配置されていて、描写もうまいと評価した。同時に、物足りなさがどこからくるのかと問いかけ、主人公の内面の 藤がほしいと報告した。討論では、作者の意図が めない。メッセージを直接書くのではなく、「死」に関するイメージを積み重ねて描くことにより、無常観を伝えているのでは。何げない日常のイメージを、大切に描いているとの意見があった。作者は、直次と神戸育ちで阪神大震災を経験しているキシの架空の夫婦の物語を、五作書いた。その最後の作品。高齢化した村では、五月雨のように葬式がある。「死」が日常になり、亡くなった人の残像が見えてしまう。五作を長編に整理していると語った。

 「連絡B」について、井上氏は障がい児がそれぞれ個性豊かに描かれている。パニックを起こした幸二を農園に連れて行き、洋一が自分の無力さに打ちひしがれていた時、洋一を慰めるかのように幸二が発語した場面が美しい。卒業式での小島と風間のあいさつは冗長ではないかと報告した。討論では、三年で帰るつもりが、三年経って残る教師の変化を描くために、作者の視点で場面を選択する必要があったのでは。障がい児教育を描いた感動的な作品。教育とは何か、教師はどうあるべきか考えさせられるとの意見がでた。作者は、全て二十年前の自分の体験。普通校では大学進学率とか、他人と比較することばかりだが、養護学校では他人と比較することの無意味さを痛感させられる。自分は三年たって普通校に戻ったが、心残りがあって書いたと語った。
                                           (最上 裕)
 
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