「作者と読者の会」 2019年1月号、2月号



            作者と読者の会

 一月二十五日は鶴岡征雄作「千切られた日記帳」(二月号)と能島龍三作「この街に生きる」(一月号)を取り上げて行われた。参加者は十一名。

 はじめに鶴岡氏の作品を読んで「瓢吉の正子に対する思いが中心だが、不美子の誘惑に抗う思いはなかったのかと疑問を持った」と仙洞田一彦氏は話された。正子、不美子の二人の女性は二十二歳の瓢吉より三、四歳年上である。相手を愛し独占したいと、正子に迫っていくが、互いの思いがずれて正子を傷つけてしまう。その結果正子は出奔し、別の男性と暮らすようになる。正子の怒りに瓢吉は驚き悩む。その瓢吉を受け止め癒してくれたのが不美子だったと描いている。
 参加者からは素敵な恋愛小説だという感想や、再会した正子の辛辣な言葉で正子が家出した理由を理解し悔いる気持ちに至った経過が明らかになるが、それをテーマにしている。失恋で生きる方向を見失っていたが、不美子に眼を覚まされ、大人への成長をつかんだなど沢山の意見が出て、討論は活発に行われた。
 作者からは二十歳前後の青年が愛する女性を傷つけてしまう悔いを表現したかった。本音で悩みながら生きている関係を深め、未熟だが、若い青年像を描きたかったと話された。

 「この街に生きる」では風見梢太郎氏が、息子を区議に持つ共産党一家の中にいて、主人公の正憲は妻と活動スタイルが異なり人と交わるのが苦手だが、「外環」問題が起こって、正憲は苦手意識を克服して行こうとする。その心の動きが綿密に描かれていると話された。
 裁判傍聴の場面も臨場感がたっぷりで感動を呼ぶと参加者からも感想があった。また妻とのほのぼのとした掛け合いも楽しく読んだという声もあった。
 作者からは、街が壊されていくことに抗して、生きなければならないと「外環」問題で感じたことを描いたと話された。
                                             (北嶋節子)

 
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