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作者と読者の会
十一月二日は田本真啓作「さくらが鳴いた」と竹之内宏悠作「私、行きます」を取り上げて行われました。参加者は十二名。作者の一人、田本氏はスカイプで参加された。
はじめに竹之内作品について最上裕氏にていねいなレジメに沿って、提起していただいた。最上氏は「川崎地域合同労組の書記長を務める古田孝広は長年の運動にもかかわらず職場の労働環境は悪化の一途をたどっていることに怒りと苛立ちを感じているが、労働者の努力の中に希望はあると読者に訴えたかったのだ」と話された。
フードバンク活動をしている高山と上司からパワハラを受けて、過酷な状況に置かれている二十歳前後の伊藤という女性が登場し、具体的な状況が描かれている。特に伊藤に寄り添い上着を貸し弁当を買いに行く場面は人間的なつながりを描いていて感動的だが、六月ごろ国会で決定された働き方改革にふれているところは時間的に無理があると指摘された。参加者からは「私、行きます」のタイトルは未来の希望を予感させ良かった。もう少し続きを読みたかったという感想があった。
「さくらが鳴いた」ではA4十二頁(四百字詰換算三十七枚)に及ぶ緻密な資料で松井活氏が実際の描写を挙げて報告した。「神社の鳥居付近で出あった純白毛の猫『さくら』が独特の雰囲気をつくっている。幼少より父親に虐待に近い暴力を受けていた陽平が、会社をやめ、引きこもりにならざるを得なかった理由が親子三人で生活する中で語られていく。希死念慮に取りつかれた若者が抱えている心の闇の深さと、周囲の無理解がそれを加速する悲劇を描いたのだ」と話された。参加者の間で陽平が自死することはどんな意味があったのか論議になったが、作者から「人が死ぬということを見つめて描きたかった」という言葉があった。読者自身がそれを考え、深めていくことが文学ではないかという意見が、最後に参加者から述べられた。 (北嶋節子)
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