「作者と読者の会」 2018年7月号


            作者と読者の会

 六月二十九日(金)午後六時より文学会事務所で開催。七月号の木下道子作「酒蔵の街」を澤田章子氏が、渥美二郎作「ライク・ア・ローリングストーン」を北村隆志氏が報告。司会は編集長の宮本阿伎氏。参加者十四名、うちスカイプ参加一名。

 「酒蔵の街」について、この作品のテーマは、主人公登志子が若いころ暮らした酒蔵の街を訪ね一九六〇年初頭の青春時代、会社の攻撃にさらされた悲喜こもごもへの回想を通して、一途に闘ったその日々とは何かを問うところにおかれていると思うが、誠に味わい深い作品である、しかし最後の五行は必要かどうかなど、と報告された。
 参加者からは、味わい深い作品であるが、主人公登志子は充足感より、寂しさで終わっている、また、長屋やアパートの住人はどんな人たちだろう、と思った、一九六〇年代初頭の労働運動高揚期に、職場の村八分があったということに大変衝撃を受けた、酒蔵の街の描写やアパートの住人の会話、野球の場面などが生きている、等の意見が出された。作者は「民主文学ってなんだろう、といつも頭におきながら、全国で書いて頑張っている皆さんの活躍からエネルギーをもらって書いている」などと語った。

 「ライク・ア・ローリングストーン」について、この作品のモチーフは「他者受容」である、あちこちにユーモアがありいい小説である、と報告された。文書を用意した参加者からは、次の発言があった。〝「ジロー」先生と生徒たち、同僚との軽やかな会話の背後に互いに個性や弱点を認め合い、差別や排除のない社会にしようという作者の前向きの姿勢を感じた。
 同時に、ADHD(発達障害)などの診断を実際に受けた人たちをかえって傷つけかねない描写があると思う。特に主人公が、ただチェック項目に記入しただけで、自分は「発達障害」だ、と決め込んでいるが、当事者であるかどうかは、厳密な医学的検査と専門医の診察によって判断されなければならないと思う。
 また、「共産党宣言」の一説を引用して「さすがはマルクスだ」という場面があるが、主人公が過去と現在について述べている中身とは何の関係もない〟などの意見が出された。参加者からは、この小説は我がADHD発見記である、ADHDは医師の診断を受ける必要があるが、この小説では医師の診断を受けたわけではなく、ADHDを軽く書いている、この小説を読んで、着想は良かったが「多動」もみんな仲間だ、と言いたかったとは思うが、当事者にとっては厳しい問題がある、材料は「発達障害」でいいがしかし教師が生徒の前で「発達障害」というのはどうか。作者が言いたかったのは、自分が発達障害者だと言って、まわりを救おうとしたし、読者にも呼びかけようとしたのだと思うなど、様々な発言が出た。
                                          (青山次郎)
 
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