「作者と読者の会」 2018年6月号


            作者と読者の会

 六月一日、文学会事務所で新人賞・佳作受賞の二作を取り上げ、宮本編集長の司会、十一名の参加で行われた。

 田本真啓「バードウォッチング」では田島一氏が、父親の自死という重いものを抱えた主人公「僕」が、祖母の介護を切っ掛けに人間として避けて通れない問題を探ろうとした作品で、登場人物は絞り込まれて過不足なく描かれ、出来事を印象深い描写で迫る作者の感性が魅力と報告。但し、「僕」には謎が多く、構成の工夫等からもっと深めて描けたのではないかと指摘もされた。参加者からは、祖母の介護という重い主題だがユーモアがあり、明るさや透明感のある読後感をもった、作者の語り口が個性的で従来の『民主文学』にはみられなかったものがある、バードウォッチングに関わってラムネの瓶で見る新鮮さに惹きこまれた、何を描きたいのか作者自身にしっかり捉えられておらず、描写でなく観念的なものになった、生活を描写してこそ小説、などの感想、意見が出された。スカイプで参加した作者は、「僕」が掘り下げられていないのが分かった、引きこもりの経験に自分が向き合えていないので描ききれなかった、介護は逃げられない課題と感じたが、明るく描きたかった、経験に即す描写などを頭におき次の作品につなげていきたい、と語った。

 梁正志「奎の夢」では吉開那津子氏が、面白くよくここまで描いてくれたと思ったが、背景が難しく、当時の状況は作者や主人公が感じたものよりもっと厳しかったのではないか、自分の将来や周りの人たちに対してもっと感受性があってもいい、小説は基本的に主人公が見た世界を描かなければならない、視点のゆらぎについては再考が必要、などと報告した。参加者からは、この史実について表面的な事しか知らなかったが細かいことが解り、考えさせられ勉強になった、若い人たちの物語でもあり面白く共感もした、歴史上の人物を描いたことは大切、資料を読み込んで描いたことには意味があるが、歴史的事実についてはより慎重に調べなければならない、モチーフは解るが相当無理して書いていて時代の空気が読み取れない、リアリティが不足、いい小説は一つの視点で世界をとらえる、などの感想、意見が出された。作品の鑑賞とともに、小説とはどういうものか、考えさせられ、学び合える会ともなった。 
                                           (青木資二)
 
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