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作者と読者の会
四月二十七日(金)午後六時より、文学会事務所で開催した。五月号の橘あおい「光射す方へ」を久野通広氏が、風見梢太郎「港宿」を最上裕氏が報告した。司会は宮本阿伎氏。
当日は南北首脳会談が開かれた。参加者は七名。スカイプ参加一名。
二作品は鳥でいうと巣立ちの物語という共通項がある。人でいうとそれまでの学びの場から社会という未知の領域への過渡期の不安と葛藤の物語ともいえる。
久野通広氏は「一、作品の構成」「二、作品のテーマ」「三、感想と批評」の三章立てで報告を行った。感想と批評で久野氏は「沙也加の視点で、葛藤を乗り越えて職場選択に至る過程は、素直に描かれているところがいい。八〇年代初頭の青年学生の意識動向も点描されているが、八〇年代の時代と社会を見つめ、模索しながら自分らしい生き方を求める青年の典型としてさらに追及してほしい」と資料も紹介して詳述した。
そのうえで「民医連の病院を選ぶ葛藤が十分描かれていない」「沙也加は、まだ、『民青』や『共産党』と本格的に出会ったわけではない。『赤い病院』への就職を黙認した両親とのやりとりも今後予想される、連作を想定して、あえてそこを描かなかったのか」と指摘された。私としては、うたごえの歌の題名を入れてほしかった。
最上裕氏の報告の柱は六本立て。「一、構成、ストーリー」「二、俊郎と泰蔵をめぐる一連の作品」で、『民主文学』に掲載された四本の作品を年代順に追い、この作品の位置を同定。「三、作者は何を書こうとしたのか」では、「一連の作品群と同様に、実の親子ではない俊郎と泰蔵の精神的な絆がテーマである。泰蔵の父性愛が、悩む俊郎を励まし、生きる力を与える」とした。「四、主な人物」「五、主題との関わりで文章、言葉の表現はどうか」は「短いが、深い余韻を残す短編である」と。「六、感想」は「この作品のもう一つのテーマは、思想差別との闘いである」と指摘し、最後に「タイトルの『港宿』は、なじみのない言葉で、しっくりとこなかった。最初の描写で、空から落ちてくる灰色の牡丹雪が、俊郎の鬱屈した不安な気持ちをよく表している。また、最初のシーンで、泰蔵の励ましで心が軽くなった時に、空を見上げると、雪がやんでいた。たとえば、タイトルとしては『牡丹雪』が、合うのではなかろうか」と。
筆者は合評会の時、この意見に相当傾いていたが、再読する中で、人生行路の重要な船出の港の宿として原題がやはり一番しっくりくると思った。二作品とも作者は長編の一局面を描いた短編だと仰っていた。半可通の発言にも笑顔で対応してくださったお二人に感謝。
(今井健治) |
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