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九月二十九日(金)、高橋英男「八月のサツキ」(九月号)、東喜啓「タンポポ」(十月号)をテーマに、宮本阿伎氏の司会で、スカイプを含め十二名の参加で行われた。
「八月のサツキ」について報告者乙部宗徳氏は、レジュメを用いながら、本作は昭和五十三年の夏の短い期間に、患者や家族のための医療提供に特に腐心している診療所の事務長である主人公の、求めに応じて行った寝たきり患者の訪問診療において、甲斐あって患者が前より動けるようになったことが却って介護者の負担を増加させ、患者の縛りつけをも招来して続行を断られた苦い経験を描き、介護の現実に即して、患者や家族の立場を尊重する医療には何が求められるかを追求した作品であり、随所に患者の生活の様子や診療所の仕事ぶりが具体的に描写されているが、ただ、診療中断の結末はタイトルに結びつけようとしたのか、やや強引な感じがすると指摘した。
討論では、概ね報告を支持しつつ、約四十年前の話と明示して書いたことや、入院先が見つかったのに連絡してこない結末が不可解だったという一方、医療と福祉の狭間を渋く描いたなど、活発に意見が交換された。
作者からは、医療が頑張っても福祉が充実しないと患者への真の支援にならない現実を描き、現在の医療にも共通する社会保障運動との連携の必要を伝えたかったとの発言があった。
「たんぽぽ」について報告者最上裕氏は、レジュメに基づき、本作は、ブラックな労働環境に苦しむ若者たちが労働組合を組織してたたかおうとする姿を描いた連作の三作目であり、個人加盟制労働組合の分会を組織して団交を行う姿を取り上げ、労働運動を通じた主人公たんぽぽと松本の成長を描いた意欲的な作品で、会社の攻撃に負けて二人以外が辞めていく結末もリアルであるが、労働問題とともに扱おうとした女性の自立問題や松本の恋愛心理の過程が未消化に終ったり、タイトルを労働運動の拡散に結びつけるため細山の名前をたんぽぽとしたりしたのは疑問だと指摘した。
討論では、労働運動を人間の組織化の苦労として描いたところは好感が持てる、結末に恋愛を持ってきたのは作品を壊してはいないか、名前のある登場人物に必然性の薄いものが結構いる、労働運動の現場像としてはリアルさに乏しいなど、活発な意見交換がなされた。
作者からは、苛酷な労働現場の実態だけでなく、人間(特にその孤独)を描く課題設定をしたが、主人公を女性にしたため作者とたんぽぽの視点が入り交じって困ったという発言があった。
(松井活)
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