「作者と読者の会」 2017年7月号 


 六月三十日は杉岡澄子作「うんまいなあ」と高沢英子作「鬼が棲む家」を取り上げて行われた。参加者は十五名(うちスカイプ一名)。

 始めに「うんまいなあ」について櫂悦子氏が報告。丁寧なレジメによって筋に沿って学ぶことを教えられ、鋭い感性による提起に堪能した。特に櫂氏は「懐の大きな母親スイの姿を作者は書かずにはおれなかった、モチーフの強さが感じられた」と強調された。寅吉に直談判する強さや人柄の良さなど多面的に描くことで、スイという丸ごとの人物像が立ち上がってくる。作品としてもぶれていかない堅強が感じられると語られた。タイトル「うんまいなあ」についても、茨城弁のたくましい持ち味が、作品によくマッチしている、寅吉に「うんまいなあ」と言わせることで、この作品の主題までが鮮明に見えてくると述べられた。参加者からは、戦時下の母親のあり方や女性が存在を認められない時代の様子をリアルに映していて、身につまされたという意見や杉岡さん独特のスケールの大きい中身を凝縮して描いていて感心したなどの発言があった。

 「鬼が棲む家」については橘あおい氏が報告。同じく詳細なレジメに沿って報告があった。橘氏は社会問題化している介護の問題をリアルにとらえた作品であり、キワの生き生きとした描写は認知症になってしまっても、一人で生きようという意欲を漲らせていることを感じさせ、この題材にありがちな暗さがなくむしろ希望を感じさせる、キワを取り巻く彦一や兼子、雅人と亜紀子夫婦の言動も今様の介護の在り方をよく映し出していると報告された。参加者からは、亜紀子の苦悩がはっきりしないことと回想や経過を描く箇所が入り組んでいてわかりにくかったという発言もあったが、身につまされて読んだ、キワという人物がよく描けている、認知症をめぐる悲喜劇をよくとらえているなど述べられた。作者からは、書きたいことが沢山あるため、絞るのが難しかった、これからも書き続けたいという発言がなされた。

 
 (北嶋 節子) 
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